邦画『決算!忠臣蔵』/赤穂浪士の面子と金子のジレンマは決算に終わり決戦が始まる

スコア:705/999

決算!忠臣蔵出典: 松竹
『決算!忠臣蔵』


【あらすじ】

浅野内匠頭が殿中にて吉良上野介に刃傷に及んだ件で内匠頭はその処分を受け切腹、所領は没収改易、居城である赤穂城も受け渡しを迫られる。武士の意地か?それとも金か?その狭間で揺れ動く赤穂浪士達の苦悩を描く。


【作品情報】

公開:2019年11月22日(日本)/上映時間:125分/ジャンル:ドラマ/サブジャンル:歴史映画,コメディドラマ/映倫区分:全年齢/製作国:日本/言語:日本語


【スタッフ】

(監督・脚本) 中村義洋/(音楽)髙見優/(原作)山本博文『「忠臣蔵」の決算書』


【キャスト】

堤真一/岡村隆史/濱田岳/横山裕/妻夫木聡/竹内結子/荒川良々/西村まさ彦/大地康雄/寺脇康文/木村祐一/小松利昌/鈴木福/沖田裕樹/滝藤賢一/板尾創路/上島竜兵/村上ショージ/西川きよし/阿部サダヲ/石原さとみ


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ポイントレビュー


■新たな忠臣蔵の可能性を感じるベンチャー的作品

アクセル神田
アクセル神田
ドラマ担当
ポイント:268/333|評価:GOOD

年末年始の風物詩、お正月に何となく見るモノ、そういや綱吉の時代の話か、などなど言い方は様々ではありますが、もうマンネリ中のマンネリと言っては過言ではないこの『忠臣蔵』系の作品の数々。

どう演出を工夫しようが、筋書きを書き換えようが、史実に圧倒的に偏らせようが、お岩さん(邦画『忠臣蔵外伝 四谷怪談』)を出してみようが(この作品はなかなかでしたが)、どこをどう絞り切っても新鮮味は出て来ません……と、そんな風に思っていた時代が私にもありました(当サイトのレビュアー内で今更『バキ』が流行っているわけではありません)。

素直に凄い!ブラボー!と言える作品です。国民的時代劇の『水戸黄門』を別の切り口で、全く新しいものに見せたようなもんですから。

正直なところ、全くもって期待をしていなかったので、その分を割り引く必要はあるでしょう。ただ、これはもっと評価されてもいい作品なのは間違いありません。歴代の『忠臣蔵』でも名作と呼べるものがないわけではないですが、ベンチャー的な視点から最後まで描き切ったのは少なくとも私の知る限りでは本作だけです。

大抵の人がお話の筋を概ね理解しているというマンネリ要素すら、良い方向に利用していますからね。いやはや恐れ入りました。

あとはそうですね。ちょっとだけ本作の見方の提案をさせて頂ければ、お年玉をもらったばかりのお子さん一緒に本作を見ることが本作の楽しみ方として一番有用かと思われます。

明確に「お金は大事だよ」ということを子供にも分かって貰える作りになっていますので、お金に対する情操教育に役立ちます。歴史学としても綱吉公時代の政治制度の勉強の触りぐらいにはなりますしね。

そして、何よりも役立つのは、それらを理解させた上でお年玉の一部を通帳に貯金しておけてしまうこと。普通の良い子であれば、本作を見れば素直に言うことを聞いてくれること請け合いです。

例え納得してくれなくても、何の説明もなしに取り上げられるよりはマシですからね。もしも、そうなった場合は私のようなお金に対して歪んだ性格の大人になってしまう可能性があります。ここは万全を期しましょう。

さて、ネタバレなしではこれ以上書くことがなさそうなので、この場を借りて新年の挨拶がてらに我が愛しき父上と母上に一言だけ。

お父上、お母上……あの時のお年玉の決算はいつですか?


■おじいちゃんもおばあちゃんも現代っ子も一緒に楽しめる忠臣蔵

試文 書人
試文 書人
コメディ担当
ポイント:235/333|評価:GOOD

良くこういった作品を「笑える」といった触れ込みで、宣伝してしまう映画が多いけど、これはそんなチープなコメディドラマではない。っていうか、腰を据えて見るとコメディじゃないかもしれないってほどに深いところで現実的な哀愁が漂ってる。

むしろ、時折差し込まれる無理矢理にねじ込んだようなコミカルな演出が不必要だったとさえ感じた。この作品に関してはああいうのはいらなかったね。

笑いと泣きは表裏一体なんてことを誰かが言ってたような気がするけど、その路線を貫き通してくれれば個人的にはもっと良かった。そこだけが残念だったかな。

でも、そのマイナスを補って余りあるのが、現代の金銭感覚に徹底的に照らし合わせて分かりやすくしてくれているところ。しかも、ストーリーに関しても原作からして誰もが知るものだし、本作自体も主題がシンプルだから、おじいちゃんやおばあちゃんとも、お正月に一緒に楽しめるよねっていう家族団らんに対する心遣いまで付いて来る。

あ、今後ろを通り過ぎたお母様、はるばる実家に帰って来たご褒美とばかりにお雑煮にお餅を二つもぶち込んで下さいまして、ありがとうございました。おかげで汁が服にこぼれたし、交通費も結構使ったけど、やっぱりお年玉いる?え、親父殿も?


■出演陣の出過ぎず、出なさ過ぎずのチームプレイが秀逸

山守 秀久
山守 秀久
歴史好き代表
ポイント:202/333|評価:GOOD

思いのほか、史実に忠実と言いましょうか、武士だって所詮人間ですからね、という事実をしっかりと描いています。

お笑い芸人の出演者が非常に多い作品でしたから、全体的にもっとハチャメチャな感じに仕上がると予想していましたが、思いの外それぞれがキャラクターを出し過ぎずに役者に徹していたので、思わず面を食らってしまったぐらいです。

また本作には、お笑い芸人並みにキャラの濃い俳優陣も出演していますが、こちらも同様に役柄に徹し切っておられます。

役者気取りのお笑い芸人、お笑い芸人気取りの役者、どちらもアレルギー的に受け付けないという方でもおそらくアレルギー反応を起こすことなく、観ることができるのではないでしょうか?

ホンモノのアレルギーなら、最初から手にも取りはしないとは思いますが、こちらは直接体内に取り入れるわけではありませんので、是非これを機会に挑戦してみて頂きたいところです。

そもそも論として、何かを演じるという人間がごく日常的に行っているごく自然な行動に、本業かそうでないかは、それを商売として成立させるためにどう磨いていくか以外に余り関係ないお話だとは思うんですが、「餅は餅屋じゃなくては絶対にダメだ」というお考えをお持ちの方でもオススメ出来るレベルには良作ということで、一度無の境地になってお試しになってみてはいかがでしょうか?

では新年なので、流れ的に私も

ねぇ、お母様。毎年紅白歌合戦を見る度に「最近の歌は良く分からない」って言うのはやめて下さい。あなたの最近は一体いつから始まっているのですか?お父様もそれに頷いてたら負けですよ。


メインレビュー

ネタバレありの感想と解説を読む

現代のサラリーマン社会にも通じるものがある

アクセル神田
アクセル神田
メインレビュアー
ドラマ担当/最高評価

メインレビューに置いても、可能な限りネタバレは避けておきたい派なんですが、本作でもっとも評価したい部分がほぼエンドロール前なので、今回はその派閥を抜けさせて頂きます。

この『決算!忠臣蔵』と言う作品、なんと『忠臣蔵』を名乗っておきながら、最後の討ち入りのシーンを描かずにお話を終えるのです。討ち入りについては後日談的に説明するだけで終わります。これってとてもチャレンジングじゃありませんか?

おじいちゃんおばあちゃん世代からすると、そこが見たいがために、退屈で冗長な討ち入りに至るまでの顛末を我慢して見ているフシがあると私自身は思っていたのですが、『忠臣蔵』の着地点たる吉良の首を取るシーンさえ出て来ません。もっと言ってしまうと、吉良上野介は最後まで誰が演じていたのかさえ分かりません。

つまり、この『決算!忠臣蔵』には吉良自体は名前以外に全く登場しないのです。浅野内匠頭の刃傷シーンでも映るのは、怒り狂って乱心したような内匠頭の表情だけとなっております。

だが、それがいい。

これです。こういう時に使う言葉なんですね。時代も作品も違いますが、どうもありがとうございます。前田慶次さん。

そうなのです。本作では肝心の核心たる見所中の見所を、あえて描写しないことで他の『忠臣蔵』とは違った味わいを出しているのです。

『忠臣蔵』が有する固有のカタルシスの面で言えば、弱くなってしまうのかもしれませんが、本作は本題が討ち入りではありませんから……この後始末の仕方は賞賛されるべきかと思います。

私には創作物というものは、何かを付け加える作業より、何かを削ぎ落す作業の方がずっと難しいという持論がありまして、無駄なモノを可能な限り省いて作られたものが、作品として完成されたものであるという認識でいます。

それゆえに、『忠臣蔵』と題したものを描く上で、もっとも必要不可欠と思われていたシーンを大胆にも完全に消し去ったのは衝撃でした。そして、確かに本作に討ち入りのシーンはいらないのです。もう討ち入るための予算組みは終わっていますから、完全なる蛇足になっていまいます。

すでに儀式化してる風潮すらある「山!川!」の合言葉の掛け合いや、清水一角との戦闘シーンなどを見たかった方にとっては、大いに不満が残る結末になってしまうかもしれませんが、それが見たかったら、決算しない普通の忠臣蔵を観れば事足ります。

本作が徹底して描かなければならない主題は、武士としての面子と金子(きんす)の問題です。冷たい言い方をしてしまえば、吉良を打ち取ったという結果は、ほとんどオマケに過ぎません。そこに至るまでの経緯、過程の方がずっと重要なのです。

本作の赤穂浪士達は、現代で言えば親会社から切り捨てられた子会社の社員達みたいなもので、早い話が本体よりも、子会社への帰属意識が強い日本のサラリーマンとほぼ同じ立場だと言えます。

親会社から出向してきた人間を心良く思わなかったり、親会社の経営判断に異論を唱えたりするところもそっくりです。

自らが所属する子会社社長の浅野内匠頭の刃傷事件がその発端にあるとはいえ、喧嘩両成敗というグループ会社としてのルールがあるのに、なんで、あっちの子会社(吉良)はお咎めなしで、こちら(内匠頭率いる赤穂藩)は解雇倒産なんだという言い分も、良く分かります。

大口の取引先の接待の件で、子会社の社長同士の関係が悪化して、親会社の社長が恥をかいたみたいな話ですからね。ここに関しては、時代的な思想が入り込む余地はありますが、根本は同じです。

本作中でもそのように、現代に置き換えて例える演出が全面的に押し出されていて、気持ちの半分はサラリーマンの悲哀を見ているようでした。

武士(事件後は浪人ですが)もサラリーマンも人間ですから、無駄遣いもしますし、飲み会もします。経費の無駄遣いだってあります。それについてのアホみたいな言い訳だってします。

そんな紆余曲折があって、彼ら赤穂浪士(リストラされたサラリーマン)は、結局その後の人生をどう選択するのか?

それが偶然にしろ、惰性で至った結論にしろ、あるいは本当は計算し尽されて出された結論にしろ、それはそれぞれ本人にしか答えは分かりません。もしかしたら、本人にすら分からないかもしれない。

本作はそれを観賞者に想像させるために、あえて彼らを武士道とは別の視点から丁寧に描いています。このような作品にやはり討ち入りシーンは合いません。『忠臣蔵』の一番の部分を斬り捨て御免にしたことは、私にとって今後の時代モノの邦画への期待感を大いに高めてくれたと言えます。

ラストのそば屋での和気藹々とした赤穂浪士達の会話は、思わず涙が出そうになったほどです。おそらく通常通り大石内蔵助の切腹シーンで終わっていたら、こんな感情にはならなかったでしょう。

でも、現代にこの状況を置き換えると残された従業員達は一体どうやって戦えば良いんでしょうかね……

まさか子会社吉良ビルに討ち入るわけにも行かないですし、こうして考えると現代の日本のサラリーマンは赤穂浪士達よりある意味厳しい状況にいるのかもしれません。

うーん、でもこれもお金があったら何とかなるんですよね。従業員でお金を出し合って親会社から独立したり、子会社の吉良社を買収したり、あるいはライバル会社に買って貰ったり、現代のサラリーマンは武士道に反しても全然問題ありませんからね。お金さえあれば、何だって出来るような気がしてしまいました。改めてお金の力って凄まじいです。

また、これは余談になりますが、一部の歴史学者の間では「赤穂浪士達は単なるテロリスト(若しくは犯罪者)なのに、なぜ日本ではこんなに愛されるのか?」ということが議論になっているようです。海外でも一部そのような議題が出されているとの話を聞いたことがあります。

あれだけマンネリマンネリと叫んでいた私が言うのもなんですが、こういった情報を目にする度に「歴史にはロマンが必要なんだよ」で終わらせて欲しいなと密かに思っている一人です。

歴史を紐解くことは極めて重要なことです。真実を追い求めることには価値があります。しかしながら、歴史由来の創作物をそれなりに愛する者として、人類の物語でもある歴史そのものを、その時代の事情を考慮せずに無機質に分析してしまうのは無粋とか野暮ってもんじゃないでしょうか。

そりゃ現代の価値観に当てはめれば、内匠頭がもう少し大人になって辛抱すれば良かっただけですし、吉良も吉良で老害じみた振る舞いをお上が事前に注意しておけば防げた事態でしょう。赤穂浪士も当時の法律的なものを「武士としての矜持」という動機だけで破ったわけですから、お上(政府)に対するテロでもありますし、犯罪者でもあります。

でも、いいじゃないですか。そういう時代だったんだから。

……と、色々と闇雲に書き連ねてしまいましたが、この『決算!忠臣蔵』を観てしまったせいで、斜陽コンテンツとバッサリ斬り捨てられる時代劇がまた一つ減ってしまったことだけは悔やまれます。

作品をクサしてやろうなどという邪心を持って見ると、こういう目に遭ってしまうものです。

吉良と同様に、人間、何事も侮ってはいけませんね。そういえば、決算と決戦は語呂も語意も良く似ています。そのあたりも計算されているなら、もう私みたいな偏見持ちに言えることは何もありません……ご無礼の数々、失礼仕りました。

本作の名台詞

小さなことからコツコツと先のことを考えて貯めてきた金や

出典:決算!忠臣蔵/VOD版

役名:大野九郎兵衛
演:西川きよし