オーストラリア映画『あまくない砂糖の話』/甘くしたことでかえって飲みづらくなった風邪薬みたいなドキュメンタリー

スコア:501/999

あまくない砂糖の話出典: MADMAN
『あまくない砂糖の話』


【あらすじ】

現代において食物は糖分で溢れている。実はこの糖分、お菓子やジャンクフードではないごく普通の食品にも多く含まれている。昔は貴重で微量しか取れていなかったのに、急にこんな取ってしまって大丈夫なのだろうか?


【作品情報】

公開:2014年11月20日(アムステルダム国際ドキュメンタリー映画祭)|2015年6月1日(シアトル国際映画祭)|2015年7月31日(アメリカ)/上映時間:90分/ジャンル:ドキュメンタリー/サブジャンル:ビジネス,,健康問題/映倫区分:NR/製作国:オーストラリア/言語:英語


【スタッフ】

(監督・脚本)デイモン・ガモー/(音楽)ジョジョ・ペトリーナ


【キャスト】

デイモン・ガモー/ヒュー・ジャックマン/イザベル・ルーカス/スティーヴン・フライ/ブレントン・スウェイツ


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ポイントレビュー


■問題を検証する上での客観性に疑問が残る

山守 秀久
山守 秀久
ドキュメンタリー担当
ポイント:161/333|評価:GOOD

砂糖を大量に取ると危ない!というドキュメンタリーとしての主張は一貫しています。しかしながら、製作者本人の事前の思想面がすでに凝り固まってしまっている影響が著しく、主義主張が偏り過ぎていて、真実をゴリ押しされている気分になりました。

作中では『スーパーサイズ・ミー』よろしく、ディモン・ガモー本人が自身の人体を使って砂糖の怖ろしさを伝える実験をするのですが、実験の条件が途中からブレブレになっているので、とてもじゃありませんが、客観的検証とは言えない部分があります。

また、日本と食品の事情がかなり違うので、作中の糖分の多い健康的な食品という定義が、日本人にとっては分かりにくい部分があります。テンポも悪くありませんし、映像もポップで楽しいのですが、ドキュメンタリー映画としては凡作といった感想です。


■日本でやるなら槍玉に挙げられるのは塩になるのかね?

近道 通
近道 通
オールジャンル担当
ポイント:175/333|評価:GOOD

何となしに眺め観てる分には興味深かったところもありましたが、「改めて言われなくたってそんなことは分かっているよ」って部分が相当ありました。そりゃどんな食物や栄養素だって、摂取し過ぎたら体に悪いのは当たり前でしょ。まぁ、そうしたモノの中でも特に砂糖がヤバイっていうのは伝わったかな?

でも、日本人ならこんなこと大抵の方が知ってるし、自覚してると思うんですよね……日本では低糖質ダイエットなんていう、極端に糖を避けるダイエットが流行ったりしてますし。製作国のオーストラリアは違うんですかね。

ある程度勉強にはなったけど、これで「これからはちょっと砂糖を減らしてみようか?」とまではいきませんでしたね。


■極端なりに一つの主張として理解出来る部分はありますが……

猿渡 りん子
猿渡 りん子
アクション担当
ポイント:165/333|評価:BAD

地下に堕ちたカイジにとってビールが犯罪的なら、地上で自由に食事を取れる一般人にとっては砂糖は麻薬的ってことですかね。確かに麻薬かも。大人の私でも気が付いたらポッキーひと箱ペロリなんてこともあるし、普段「好き嫌いなく食べなさい」的な育て方で抑圧されている分、子供達にとっては、欠かせない娯楽的な味覚だと思います。

本作で主張されていることが正しいのは何となくわかるんです。視聴中も「うん、うん、なるほどねぇ」なんて言いながら、紅茶片手にコンビニブランドのクッキーをつまんでいました。

でも、いくら何でも極端な話が多すぎだし、反対意見がほぼ無視されちゃってるんですよね。「体に悪い」の繰り返しも気になりました。私としては、食べたいもん食べて生きて生きたいって側の気持ちも分かるし、砂糖だって美味しい。ケーキバイキングに行ったら、不可能なのを知りつつ元を取りたくなっちゃう。

一つの主張として理解出来る部分はあるんだけど、これが丸ごと真実ではないと思うし、仮に真実だとしても、この映画みたいな言い方されたら、私は天邪鬼なのでそれに絶対従いません。

糖分を含め『食』って生きる糧であり、楽しみであり、生きがいだと思うんです。それを良いか悪いかの二元論でバッサリ斬られても、ちょっと納得できませんでしたね。


メインレビュー

ネタバレありの感想と解説を読む

うまいものは基本的に体に悪いんですよ

近道 通
近道 通
メインレビュアー
オールジャンル担当/最高評価

じゃあ甘いモノ命で生きてるヤツはどうすりゃいいんだよ?の連続の作品ではありましたが、日本の食文化との乖離がかなり感じられたので、別世界のドキュメンタリーとして観られたので否定的な目線で観ることは少なかったですね。

特にブドウ糖と果糖の話は勉強になりました。果糖って名前からすると、自然の香りがするので、当分の中では物凄く健全なものだという認識だったのですが、取り過ぎるとヤバイことは理解できました。名前に騙されちゃいけませんね。

とはいえ、全体を通して言えば、本作のホスト兼主演のディモン・ガモーの主張や行動については首を傾げざるを得ない場面が多々ありました。一旦「砂糖の大量摂取の危険性」の問題を外に置いて作品を観てみると良く分かるんですが、彼の言っていることって、結局「俺の食に対する考えは正しいんだぞ」の繰り返しなんです。

自分の体を使った実験にしても、これまでの食生活を真逆にするスタイルでやって、もうやる前から結果が見えているような口振りで映像が進んでいきます。ステーキソース代わりに精製糖をぶっかけたりとか、常人であれば絶対しない方法も組み込んで砂糖を摂取しているので、もうこのあたりで結論ありきなんだなと感じました。

ドキュメンタリーというのは、概して結論ありきで作られるものですし、一定の結論を出さなければドキュメンタリーとは言えない要素がありますから、特別珍しいことではないんですが、正反対の視点はおろか、中立的な視点さえないですからね。本作をもっとチープなタイトルに変更しちゃえば、この話は『砂糖沢山取って体悪くしてみた』で上映できますよ。

ただ、完全にドキュメンタリーとして破綻しているとまでは言い切れない作品なのがまたやっかいでして……主演のディモン・ガモーは、気のいい奴で好感が持てるし、周囲の研究者も真面目に取り組んでいてとってもやさしい。視聴者に興味を引かせる演出も上手です。食品のパッケージになっている識者が語るメルヘンな演出なんかは好きな方は多いんじゃないかな?

だからこれ評価に困るんです。映画としてはなかなか面白い方ですからね。正しさを押し付けられるのが絶対に嫌な人間でなければ、「そういう見方もあるわな」程度の感覚で余裕をもって見られるち思います。

おそらくここが本作を好きになれるかなれないかの境界線になるでしょうね。私はギリギリで好きにはなれましたけど、レビューの冒頭でも書いた通り、「じゃあ甘いモノ命のヤツはどうすりゃいいんだよ?」に対する答えがほとんどないのだけは、ちょっと許すことができません。そこはもうちょっと何とかならなかったんでしょうかね?

甘いモノは基本的にうまいですし、そして、うまいものは基本的に体に悪いんです。私はこれは食べ物というもの真理だと思っています。

映画の終盤に、子供達にフルーツや野菜で食物の美味しさを感じられるようになることが必要だと主張する場面があるんですけど、そうはうまくいかないから、砂糖が出てきたという考えだってあると思うんです。

もちろん、体には取り過ぎは体に良くありませんし、ある程度の制限は必要でしょう。でも、絶対それで、全員が全員「砂糖なんかいらない」とはならない気がします。

少し、話は変わりますが、日本の刑務所の中では甘味が少ない食事が多く、受刑者は常に甘味に飢えていて、たまに出るちょっとした甘味でも「甘シャリだ!」なんて言って、大喜びするそうです。

受刑者と子供を同列に扱うのもどうかと思いますが、超健康的な食生活の中に、普段は感じることの出来ないどびきりの感覚を与えてくれる食べ物が出て来たらそれは絶対に嬉しいし、人生の喜びでしょう。

何を何のために食べて生きるかって、とても難しい問題だと思うんですけど、生きるために食べるのと、楽しく生きるために食べるのって、相容れない議論なので、そのどちらかを優先してしまうと、どうしてもこういう結論の作品になってしまうんでしょうけど、そこが最後まで不完全燃焼でしたね。

あと、これは素朴な疑問なんですけど、作中で言われていた「同じカロリーでも、糖分の比率が高いものを摂取した方が絶対的に太る」って本当なんですかね?カロリー表示の偽装とか計算間違いことか、そういうことじゃなくて、もしこれが事実だとしたら、どえれらいことだと思うんですけど……

本作の反証として、実は内心カロリー表示偽装とかのドキュメンタリーが出て来ないか期待しているかどうなんでしょう?

……しかし、それにしてもわざわざバレンタインデーの日にこんなレビューをあげることもなかろうに。本作の主張で言えば、好きな人にチョコをあげるってことは、かなり危険な行為ということになりますね。まぁまぁ、恋は甘く、危険なモノとも言いますし。

あ……、そう考えると結婚式のファーストバイトとかも危ないですね!アメリカに「ウェディングケーキはこの世で最も危険な食べ物」であるなんていう皮肉の効いた諺がありますが、本作に言わせれば、あながち祝福ジョークとは言い切れないところがあるのかもしれません。

本作の名台詞

砂糖を含む食品をスーパーから取り去ったら 8割が消えてしまう

出典:あまくない砂糖の話/VOD版

役名:デイモン・ガモー
演:デイモン・ガモー