洋画『HOMIE KEI ~チカーノになった日本人~』/ギャングだらけのアメリカ刑務所に服役した日本人男性の体験談とその後の人生

スコア:465/999

HOMIE KEI ~チカーノになった日本人~出典: エムエフピクチャーズ
『HOMIE KEI ~チカーノになった日本人~』


【あらすじ】

アメリカの刑務所に収監された元日本人ヤクザのKEIは、様々なギャング達が抗争を繰り広げる所内で、チカーノと呼ばれるギャング達に見込まれる。KEI本人が当時の状況とその後を振り返る形のドキュメンタリー。


【作品情報】

公開:2019年3月14日(日本)/上映時間:73分/ジャンル:ドキュメンタリー/サブジャンル:伝記映画/映倫区分:全年齢/製作国:日本語/言語:日本語


【スタッフ】

(監督)サカマキマサ/(撮影)加藤哲宏/(音楽)原夕輝


【キャスト】

KEI/その他関係者


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ポイントレビュー


■もう少し日本人の目線から見たアメリカの刑務所の話が聞きたかった

山守 秀久
山守 秀久
ドキュメンタリー担当
ポイント:155/333|評価:BAD

結論から言ってしまうと、ドキュメンタリー映画としては少々テーマがまとまっていない印象を受けました。個別のエピソードが右往左往し過ぎて、何を観客に伝えたかったのかが分からない構成になっています。

元受刑者が、日本とは違った意味で厳しいアメリカの刑務所内での生活について語ることに焦点を当てるだけで、十分知的好奇心を満たすことが出来たのでは?と首を捻らざるを得ない部分がかなりありました。

何かしらの狙いがあって、このような作品になったのでしょうが、単純にドキュメンタリー映画を見たという観点から得られた満足度は、残念ながら私の中では低い作品となってしまいました。

ただ、主役であるKEI自身のことは勉強になったような気がしないでもないので、ご本人の人生や人格に興味がおありの方は、満足度が高いかもしれません。

自叙伝が見たいのか、ドキュメンタリーが見たいのかで、だいぶ印象が違う映画です。私はその両方を見たかったクチなので、このような感想になりましたが、これで良かったという方がいても、決しておかしくはないと思います。


■ドキュメンタリー映画としてはリアルリティ重視型なのでは?

アクセル神田
アクセル神田
ドラマ担当
ポイント:177/333|評価:GOOD

ヒューマンドキュメンタリーとしては及第点ぐらいはあるんじゃないでしょうか?期待して見た感じの話と違ったという意見は出て来そうですが、どのようなジャンルにしても往々にして、そのようなすれ違いは起こるものです。

刑務所時代の話、過去の悪行の話、現在行っている活動の話。様々なプロットを詰め込んで一人の人間の人物像を描くという良くも悪くもドキュメンタリーにありがちな語り口なので、思っていたより少々新鮮味にかける部分は確かにありましたが、そこはアメリカの刑務所で生き残った男という本作の強いフレーズでカバー出来ていたということで……

ただ、いわゆるアメリカのド派手なムショモノを期待している方は、他のフィクション作品と比べると若干期待外れかもしれません。本作はリアル最重視のドキュメンタリー映画なので、私はこれはこれで興味深さはある作品でしたが、面白かったかと聞かれると……ちょっと困りますね。

アメリカのテレビ番組で昔から良くやっている、受刑者モノのドキュメンタリーの方が緊迫感があって面白かったような気がします。まぁ、体験者からすれば失礼な話だとは思いますが。


■もうちょっと娯楽性があった方が良かったかも……

猿渡 りん子
猿渡 りん子
子持ち代表
ポイント:133/333|評価:BAD

元ワルの方が更生した話にもなっているので、「親になったら見ておいた方が良い」みたいなことを言ってみたかったんですが、そういうお話ではありませんでした。穿った見方をすると、自己PR要素を孕んでいる箇所もあります。

KEI本人はお話が上手でインテリジェンスもあり、その手の世界や環境に疎い私のような人間でも非常に分かりやすく聞き取りやすい口ぶりでエピソードを語ってくれるので、「本作は彼の人生のドキュメンタリーなんだな」というのは伝わるのですが、それ以上のものは感じ取ることが出来ませんでした。

ドキュメンタリーって一種の社会勉強だと私は思っているので、見ている最中に少しでも「だったら私はこうしよう!」「それなら、子供にこう接するようにしよう」という考えが浮かんで来ないと、途端に眠たくなってしまうんですよね。そんなに仲良くない人の身の上話を聞かされているみたいな感じで……

いや、これどうなんでしょう。刑務所内での血みどろの抗争劇とか、そういう残酷な娯楽性をもっと話に取り入れてくれた方が、血みどろの抗争劇とか苦手な私でも見やすかったような気がします。それだと子供の教育上よろしくないのかもしれないですけど、本作自体、あんまり子供時代から勉強させたいようなお話ではないですからね。


メインレビュー

ネタバレありの感想と解説を読む

部分的には母として思うところはあった作品ではありました

猿渡 りん子
猿渡 りん子
メインレビュアー
子持ち代表/最低評価

本作が作品として述べたかったのは、アメリカ刑務所で生き残りたかったら、「寄らば大樹の陰」戦法が必要不可欠ということでよろしいのでしょうか?

本作のKEIと名乗られる方が貴重な体験をなさったことは、十分にわかるのですが、私のようなパートタイマーの主婦でも、TVドラマや映画、そして本や漫画、ネットの情報などでかなり知っているお話が多かったので、衝撃はあまりありませんでしたね。

こんな感想を言ってしまうと、体験もしてないヤツがツベコベ言うなとお叱りを受けてしまいそうですが、そもそも体験しなくて良いことですから。

こちらは基本的に、少しでも社会勉強になれば、知らない世界の話を聞いて好奇心を満たせれば良いので、フィクションの世界で見て、学んだ方が分かりやすかったのなら、そちらの方が良いわけです。

ドキュメンタリーだって完全なものはありません。やはり体験された方の主観、あるいはそれを獲る側の客観や主張が大いに入り混じるものです。

アメリカの刑務所内では主に人種ごとにそれぞれがギャングを構成し、縄張りを争っていて、どこかの派閥に属していないと殺されるか、慰み者にされてしまう。

本作の場合は、それが日本人で、かつ『チカーノ』と呼ばれる原則他人種を受け付けない排他的なギャング集団に認められた稀有な存在ということで、それを前面に押し出されていますが、それに対してどんな反応を示せば良いのか分かりません。

これを見た後に言えるのは自分の子供に「アメリカの刑務所はリアルに地獄だから絶対入っちゃダメよ」ぐらいなんですよね。

ただ、本作の主役であるKEIさん本人には多少好感が持てたのは事実です。これはご自身が作中で言った言葉ではなく、その古いご友人が彼を評して言った言葉ですが、「やっぱ人生は実力とかそんなの関係ない……運、99.9%運の男だから」とおっしゃっていました。

こういう形態のドキュメンタリーって、どうしても手放しの主役アゲアゲになってしまうものですが、こんな風に客観的に自分を評されている場面を編集でカットしなかった点に関しては、少なからず男らしさを感じましたね。

あとは刑務所での話以外に、主人公のKEIがヤクザになり、アメリカで罪を犯して捕まったという背景的な事実も映し出されます。ここに関しては彼がワルになったのは、彼の家庭環境などが大いに関係していて、それで『チカーノ』との出会いや家族とのことで色々あってといったドキュメンタリーでは良くある流れです。

ここのテンプレートな流れと、そのテンプレートを行ったり来たりする、ごった煮感をどうにかしてくれれば、もっと学べるものがありそうだっただけに、その点はちょっとばかし残念でしたね。とりわけ映画内におけるKEIの母に対するインタビューは素晴らしかったので特に。

この映像に関してだけ言えば、途中で見るのは止めなくて本当に良かったと、胸が張って言える場面でした。

KEIさんのこれまで人生の核心に迫っている部分なので、本当に母として、女として、人間として、何か心苦しいというか、正しく生きて、正しく子供を育てるってどういうことなんだろうと、観賞後もかなり尾を引きずりましたね。

このシーンに関して言えば、私としてはかなりの高評価を出したかったのですが、全体を通すと、結局何を伝えたいのかわからない。フィクションとドキュメンタリーの違いって、「後は見た方の想像にお任せします」をやっていいのか、やってはいけないのかにあると私は思っているんですが……

本作はそれをやってはいけないハズのドキュメンタリー(冤罪モノなどはさて置き)で、「後は見た方の想像にお任せします」的なプロットの締め方が多かったので、そこが感想に大きくマイナスに動いてしまいました。また、本作の描き方だと、KEIは更生しようとしているのか、自分の中での「家族」という思想を実現させたいだけなのかが、ふんわりしてるんです。

部分的に良かった場面は確かにあるんですけど、居酒屋で集まった男達が始める「昔はワルかった自慢」を聞かされているような面倒くさい雰囲気も、それと同時にそこはかとなく漂っている映画なので、どうなんでしょうかね。ただ過去に悪いことをした人が、それをひたすら反省しているって話ばかりでも、それはそれで退屈でしょうし……

そう考えると、犯罪に関するフィクションやドキュメンタリーを娯楽として捉えることも出来る私自身も、自分が思っている以上に業が深い人生なのかもしれません。

本作の名台詞

謝んだったら 死んじゃった方がいいっていうのがあるわけですよ

出典:HOMIE KEI ~チカーノになった日本人~/VOD版

役名:HOMIE KEI
本人:KEI