アニメ映画『花とアリス殺人事件』/監督、脚本、音楽、原作、岩井俊二。あのぉ…仕事し過ぎじゃないですか?

スコア:709/999

花とアリス殺人事件出典:ティ・ジョイ
『花とアリス殺人事件』


【あらすじ】

4人のユダにユダが殺されたとの噂を信じ、ユダの呪いを恐れながら毎日を送る奇妙なクラスに転入するハメになったアリスは、その真相を探るべく、隣の家に住む登校拒否のクラスメイト花と共同して調査に乗り出す。


【作品情報】

公開:2015年2月20日(日本)/上映時間:100分/ジャンル:アニメ/サブジャンル:青春映画/映倫区分:全年齢/製作国:日本/言語:日本語


【スタッフ】

(監督・脚本・原作・音楽)岩井俊二


【キャスト】

鈴木杏/蒼井優/相田翔子/平泉成/キムラ緑子/木村多江/清水由紀/勝地涼/黒木華/鈴木蘭々/黒木華/郭智博


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※情報は【2022年11月4日】現在のものです。上記のボタンから本作品の再生ページに直接ジャンプ出来ます。各VODを選択してご利用ください。詳しくはこちらのページでご確認いただけます。

ポイントレビュー


■実写版の前日譚ですが、本編を見てなくても平気です

猿渡 りん子
猿渡 りん子
アニメ担当
ポイント:235/333|評価:GOOD

本作は、本作公開から10年以上前に上映された、WEB配信ショートフィルム版、実写劇場映画版の前日譚となっていますが、こちらから見ても差し支えないストーリーです。

また、『花とアリス殺人事件は』一つのアニメ映画として完結した内容にもなっておりますので、本作だけを見るという選択肢をとっても問題ありません。「まだ本編を見ていないからなぁ……」と今まで再生ボタンを押すのに抵抗があった方もどうぞご安心下さい。

監督も実写版アニメ版ともに岩井俊二と変わらず、さらに実写版のダブル主演者、鈴木杏と蒼井優がそのまま本作の声優を演じています。他のキャストについてもほぼ同様です。

実写映画の役者が声優を務めることに対しては、かなりの抵抗がある私でしたが、本作品については、そこまで気になりませんでしたね。声を当てているほとんどが実写俳優だということも関係しているのかもしれません。一人だけ飛びぬけて不自然な声というのはありませんでした。

物語の展開も流石はあの実写版『打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?』を作った岩井俊二の原作・監督・脚本・音楽といったところですね。作画が微妙に崩れている場面が数か所あるのは少し気になりましたが、それも演出の一つなのかなぁと見分けがつきませんでした。

大人にもお子さんにもオススメです。


■アリスのお母様、ご連絡お待ちしております

試文 書人
試文 書人
サスペンス担当
ポイント:251/333|評価:GOOD

ショートフィルム版、長編実写版を含め全くの未見。題名を含めてミスリードが実にうまい。そんで、やっぱ岩井俊二っていいんだよなぁって作品に仕上がってる。

この場で掘り下げすぎてネタバレすると良さが薄れてしまいそうだから、ここに書けるのそれぐらいなんだけど、絵については多少好みが別れるかもしんない。

俺はこういう絵も好きだけど、萌え系の絵にこだわりを持っている方にはたぶん向かないんじゃないかな。ちょっと変わってるね。『この世界の片隅に』と連続TVアニメ『悪の華』を足して2で割って、線をぼやかしたって感じの絵面になってる。

俺は多感な時期の特有のボヤリとしたイメージが出てて、とても素敵なアニメーションだと思ったけど、ひょっとしたら、アリスのお母さんが俺的に二次元界の中ではドンピシャに好みだったというだけの話の可能性も否定できないので、そこは参考程度に。

アリス母さんの声役の相田翔子……公開時45歳。そして今現在もう50代かよ。俺が中学ぐらいの時でも結構いってたもんなぁ。いいえ、全然イケますよ。翔子さん。


■本編実写版を見たくさせる秀作アニメ

近道 通
近道 通
オールジャンル担当
ポイント:223/333|評価:GOOD

老若男女問わずに見られて、それぞれに全く異なった感想を抱きそうなアニメです。まったりとした空気感が見ていてとても心地いい。

ただ、過去に製作された実写版の前日譚ということで、一部の登場人物の描写が不足している印象は残りました。性質上、指摘してもしょうがないところではあるんですが、映画としてももう気持ち長くても良かったかもしれません。

ただ、実写本編にも興味を持たせるという意味ではかなり効果的な内容です。こういうのってズルいですよね。コラボしてるキットカットも食べたくなるし。

もうまったく……

また体重が増えちゃうじゃないか。


メインレビュー

ネタバレありの感想と解説を読む

押し付けがましさが全くない、自然な雰囲気の青春映画

試文 書人
試文 書人
メインレビュアー
サスペンス担当/最高評価

最早振り返ることすら憚られるような時代の話になっちゃうけど、修学旅行の帰りのバスとかで見たかったなぁ。俺の時は小学校、中学校と両方『クール・ランニング』だったっけ。

あれはあれで良かったけど、どう考えたって『クール・ランニング』は行きのバス向きの話なんだよね。帰りのバスには絶対こっちの方が向いてた。本作の公開時にはとっくのとうに大人になっていたから、実現不可能な要望ではあるんだけどさ。

まぁ、そんな感じで本作は、図らずも懐かしさで鼻の奥がツーンとしてしまいそうな映画でござんした。

普通の話なんだけど、妙に切ないみたいな。永遠に見えて永遠じゃないみたいな。それこそ修学旅行の帰り道みたいなね。なんだかこの映画を見終えてしまいたくないなっていう不思議なパワーが宿ってる。

物語の大枠としては、取り立てて珍しい展開を組んでいるわけではないんだけどね。少なくとも『ペンギン・ハイウェイ』みたいにぶっ飛んだ設定ではない。

タイトルだけに目をやると、少女が身近に起きた殺人事件の調査に乗り出すっていう、良くある学生探偵モノを想像してしまう人が多いだろうけど、実際はそんな話では全くないし、じゃあ、殺人事件をきっかけに転校生がスクールカーストの壁を打ち破っていくっていう学園モノ?ってのも全然違う。

しかもそれらが徐々に徐々に明らかになってくるから、「あれ?これ途中から違う話になってない?」ともならない。

だから、この映画はタイトルだけで内容を想像して見始めた人の方が楽しめる作品なんじゃないかと思う。映画の作りとしてはかなり稀有な例になっちゃうけど、本作は学校で起こった殺人事件が主題の作品だと勘違いして見た方が面白いんじゃないかなぁ。

あとは、細かなミスリードがすこぶる上手くって、一歩間違えば、話がちぐはぐになっちゃうところを見事に青春映画としてまとめ上げているのも秀逸。

しかも見せ方が押し付けがましくないから、自然な姿勢で見られてしまうんだよね。雰囲気映画にありがちな「これイイ感じの雰囲気でしょ?」ってのが全くない。。

たぶんだけど、会話のやり取りがいいんだよねこの作品。アニメってどんな設定でも演出でも受け入れられてしまう懐の深さがあるから、派手さが不必要な日常会話の部分になると、実写映画にやや見劣りしたりもするんだけど、本作は登場人物の会話にアニメ臭さがほとんど排除されているから、二人の女子中学生の青春ドラマを覗きみているような感覚にさせてくれる。

だから、押し付けがましさを感じないんだろうね。だってこっちは覗き見させて貰ってるだけなんだもん。

本編である実写版の俳優をそのまま声優に起用したという理由がこれで良くわかった。本作が描きたいのは、メルヘンでもファンタジーでもリアルでもなく、ナチュラルだってことなんじゃないかな。各登場人物の声の役を専門家である声優にあえてしなかったのは、本作品に関して言えば大正解だったと思う。

一人でも上手すぎるゴリゴリのプロの声優が目立つポジションにいたら、こんな感想は持てなかったんじゃないだろうか?会話シーンについては、やっぱ専門家に任せた方が良かったんじゃないていう感想が残るだけになりそうな気がする。

そして、こんな感じで自然さを保ったまま視聴者を物語の最後連れてってくれるから、余韻の残り方もサッパリとしつつもクッキリとしてるんだよね。この余韻が本作の中で一番良かったと言っても言い過ぎじゃないくらい。

このふわっと頭を撫でるような余韻に浸れただけでも、本作を見て俺は大満足だった。ちょっとばかし褒め過ぎではあるんだけど、こういう映画は余韻が良かったら、だいだいのことはか気にならなくなってしまうものですな。

ってなわけで、本作、『アリスと花殺人事件』は、気が向いたらもう一度見たいなと思えるかなりの良作でござんしたね。『殺人事件』がタイトルに入っている映画で、もう一度見てもいいなと思えるお話って、なかなかあるもんじゃない。再見は一年後ぐらいが手ごろかな?

ただ、鈴木杏の声質のせいで、最初は花が男か女かようわからんかったかったので、そこの混乱を抜きにしてもう一度見直したいってのはあるな。あれ、本当に鈴木杏?マジで?

いや、ああいう声の女の子クラスにいたけどさ。いやいや、ビックリ。

本作の名台詞

似合わねぇ~

出典:花とアリス殺人事件/VOD版

役名:荒井花と有栖川徹子
演:鈴木杏・蒼井優