邦画『純平、考え直せ』/ヤクザの下っ端が鉄砲玉ついでに女心も撃ってきましたみたいな話

スコア:533/999

純平、考え直せ出典:アークエンタテインメント
『純平、考え直せ』


【あらすじ】

尊敬する兄貴の元で古き良き任侠道を極めようとする純平は、ある日、親分から鉄砲玉になってくれるよう頼まれる。決行までの猶予は3日間。この間に彼は一人の女と運命的な恋に落ち、二人の心は大きく揺れ動く。


【作品情報】

公開:2018年9月22日(日本)/上映時間:95分/ジャンル:ラブストーリー/サブジャンル:青春映画/映倫区分:R15+/製作国:日本/言語:日本語


【スタッフ】

(監督)森岡利行/(脚本) 角田ルミ,木村暉,吉川菜美/(音楽)原田智英/(主題歌) the pillows『眩しい闇のメロディー』/(原作)奥田英朗『純平、考え直せ』


【キャスト】

野村周平/柳ゆり菜/毎熊克哉/岡山天音/佐野岳/戸塚純貴/やしろ優/下條アトム


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ポイントレビュー


■これでもか!ってぐらい雛形通りのヤクザの恋物語

橘 律
橘 律
ラブストーリー担当
ポイント:203/333|評価:GOOD

野村周平と柳ゆり菜、そして下条アトムぐらいしか確信を持って出演者名を言える人がいませんでしたが、何処かしらの映画かドラマで一度は見たことがあって、そこでいい味を出していたっぽい方々が、主人公とヒロインの脇を下条アトムと共に固めていらっしゃいます。

恋愛映画としては、ヤクザとの恋の雛形に対して、申し訳なさ程度に変人キャラやら、ネット掲示板の住人やらを、鉄砲玉よろしく、思うがままにぶち込んじゃった系のお話です。ですが、ここまで雛形通りだと、むしろニンマリとしてしまうものなんですね。

上記の脇を固める出演者の方々が、こんなに真っ直ぐにテンプレのヤクザ演じるの?って照れながらやっているように(個人の妄想です)見えたのも、感想としては、不思議とプラスに働きました。

私は全くと言っていいほど、純平とヒロインの恋には感動できなかったハズなのですが、最後に何故か熱いものがこみ上げてきて、涙が流れてしまったことをここに告白致します。

“なみだこぼれてゐるなんおなみだぞ”/種田山頭火

いや、マジであれ一体なんの涙だったんでしょう?

スタンダード過ぎて、先行きがくっきり見えてしまうお話ではあったけど、私の中では図らずも「意外とやるね。お前さん」って思ってしまっていた映画なのかもしれません。


■現代が舞台なのに、ヤクザだけが古臭いっていうミスマッチが意外とウケる

アクセル神田
アクセル神田
ドラマ担当
ポイント:175/333|評価:GOOD

主人公を含め、登場するヤクザ達があまりにも時代錯誤なので、体感10分ぐらいのタイミングで視聴放棄しそうになりました。ところが、念のために再生時間を確認したところ、思いのほか時間が経っていたんです。

「え、時間が流れるのが早いってことは、ひょっとしたら面白いのこれ?」と、思い直して最後まで見てみましたが……

いや~、面白かったですね。というかウケましたね。ヤクザが鉄砲玉に行く時ってこんな感じでしょ?って適当さが最高でした。

そして特筆すべきは、細かい部分の描写や台詞の言い回しがやたら古いこと。さらにヤクザ側に至っては何もかもが古い。主人公の純平は一番若いであろうはずなのに、さらに度を超して古い。バブル前のヤクザの鉄砲玉がタイムスリップしてきたのかと思う程古いんです。

そう、つまり、この純平や周囲のヤクザの古臭さと現代のスマホなどのアイテムが絶妙にマッチしていなくて、逆にそれが途中から面白く感じてしまったというわけです。

これを狙ってやってるんだとしたら、実に凄い作品だと思います。リアルなヤクザのラブストーリーとして見たら、ちょっと色々と失敗していますからね。フィクションの中のリアルなヤクザのラブストーリーなんです。このお話は。


■鉄砲玉の如く覚悟を決めて視聴して良かった作品

試文 書人
試文 書人
コメディ担当
ポイント:155/333|評価:BAD

場末のスナックのカウンターで偶然隣合わせたおじいちゃんが、急に「俺はよぉ、実は昔ヤクザやってたんだよ」と思い出話を語り始めたのを映画化したって感じ。

最初の方は「酔っ払いながら映画撮って、話にイロつけたんかい!」って言いたくなったけど、そこを諦めることで変な空気感がある不思議な作品へと段々と変化していった。

この映画は、普通の目線で見たら負けだと思う。恋愛だけじゃ尺が持たないので、不必要なシーンや台詞をあたかも必要であるかのように追加してみたら、思ってたよりちゃんとした作品になっちゃった、テヘ、ペロってストーリーだから、背筋を正して見ちゃいけない。

作中で、「銃で人を殺したら最低でも10年はくらうよ」みたいな台詞から始まるやり取りが結構出て来るんだけど、こういう部分の荒さに対して、いちいち「おいおい、銃で人撃って殺しちゃったら、このご時世で最低十年で済むわけないだろ」なんてツッコミを入れてたら体が持たないからね。

大きく広い心を持って、生ヌルい目で見れば最終的には、「ちょっと面白かったかも…」って思える可能性は秘めているお話だから、生真面目に見ることだけは止めた方がいい。

これって視聴者を選ぶ作品というよりは、視聴者が見方を選ばなきゃいけない作品なんだと思う。

そういう見方が出来ない人(出来なくて当たり前です)にとっては苦行に近い映画でもあるかもしれないけど、試しに純平と同じように鉄砲玉気分で突撃してみるのも悪くないんじゃないかな?


メインレビュー

ネタバレありの感想と解説を読む

タイトルが最高に良過ぎて視聴中に口ずさむレベル

橘 律
橘 律
メインレビュアー
ラブストーリー担当/最高評価

本作品のもっとも良かったところを教えろと言われたら、迷うことなく『純平、考え直せ』という原作小説のタイトルに手を加えずにそのまま映画に使ったことを一番に挙げます。

私の中では『桐島、部活やめるってよ』に匹敵する名タイトルです。語呂も語感も、思わずうっとりしてしまうほどに完璧。

結局この映画自体も、このタイトルを声に出して言ってみたかったって話だと思うんですよね。作中の描写では、言ったというよりは、ネットの住人が書き込みを読み上げたといった方が正確ですが、そのシーンを見ている間、私も我慢しきれずに思わず口に出して一人呟いてしまいました。しかも色んなパターンでです。

何しろ冒頭部分からずっと、心の中で呪文のように唱えまくってましたからね。「純平、考え直せ」「純平、考え直せ」ついでだから「周平も、考え直せ」って(失礼)。

多少、それぞれに言い方を変えているとはいえ、物語が佳境に入って、ネットの住人達にあれだけこの名タイトルを連呼されてしまうと、我慢にも限界があるってもんですよ。

で、このタイトル名をネットの住人達が連呼するシーンでちょっと思ったんですが……この話、ほんのり『電車男』っぽくないですか?

絶対に見たことがないハズの映画なのに、視聴中、妙に既視感があるなぁとモヤモヤしていたんですが、この映画が最高潮の盛り上がりを見せたと言えるこのシーンを見終えたあと、その靄がすっきりと晴れたんです。

内容的には全くパクッていないお話なんで、大変失礼な感想だとは思います。ですが、これ、私の中ではどうしても『鉄砲玉男』(てっぽうたまお)に見えるんです。

演出アイテムとして、5ちゃんとTwitterを足して2で割ったようなネット掲示板が出て来るぐらいしかに似たところはないはずなのに、山田孝之と伊藤淳史が歌舞伎町の夜空から順平に微笑みかけているような気がしてしまって、ひと度そうなると、気になって気になって、しょうがなくなっちゃう。

終いにはそれをこじらせて「お前らオタクで秋葉の話だろ?こっちはヤクザで新宿の話なんだよ!……でも、ありがとう」みたいなヘンテコな感情が芽生えてくる始末です。

本作品の場合はネットへの書き込みをしていたのはヒロインなので、ヒロインへの感情移入が恐らくここで生まれたんでしょうね。完全に物語の正しい解釈を見失っていますけど。

でも、だからきっとラストシーンで私の目からもヒロインと同じく涙が出たんですね。「あぁ…でもあなたのことは電車男達が見守ってくれているよ……」って単なる妄想で感動してたから、こみ上げちゃった。

そして、今こんなことをここまで書いてきて確信しました。私って映画のタイトルとか付けるのに絶望的に向いてないなって……

つーか、なんだよ『鉄砲玉男』って。女の鉄砲玉なんて聞いたことないんだから、『男』はいらないでしょ。多分、鉄砲玉の『玉』にそもそも『男』って意味が含まれてんじゃないの?

と、自戒の言葉はこれぐらいにするとして……

え~、製作陣の皆さん、取り敢えずタイトルを決める時に私を呼ばなくて正解です(呼ぶわけがない)。

私も色々と考え直すことにします。

橘、考え直せ。

本作の名台詞

純平、考え直せ

出典:純平、考え直せ/VOD版

役名:ネットの住人達
演:やしろ優、他