邦画『悪人』/愛の逃避行ってやっぱり計画性がないもんなんですね、もうちょい足掻こうよ

スコア:484/999

悪人出典:東宝
『悪人』


【あらすじ】

石橋佳乃の殺害容疑で増尾圭吾に容疑がかかるが、真の犯人である清水祐一が浮上する。心の行き場に瀕した祐一は、佳乃殺害後に携帯電話の出会い系サイトでやり取りをし、一晩を共にした馬込光代と共に逃避行を図る。


【作品情報】

公開:2010年9月11日(日本)/上映時間:139分/ジャンル:ラブストーリー/サブジャンル:ヒューマンドラマ/映倫区分:全年齢/製作国:日本/言語:日本語


【スタッフ】

(監督)李相日/(脚本)李相日,吉田修一/(音楽)久石譲/(原作)吉田修一『悪人』


【キャスト】

妻夫木聡/深津絵里/満島ひかり/岡田将生/樹木希林/柄本明/でんでん/松尾スズキ


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※情報は【2022年11月5日】現在のものです。上記のボタンから本作品の再生ページに直接ジャンプ出来ます。各VODを選択してご利用ください。詳しくはこちらのページでご確認いただけます。

ポイントレビュー


■独特の雰囲気を生かし切れていない惜しい作品

橘 律
橘 律
ラブストーリー担当
ポイント:150/333|評価:BAD

逃避行モノの恋愛映画と言うと、『明日に向かって撃て!』がもっとも有名ですが、似ても似つかぬ話です。これ、もう一息頑張れよ!って感じの作品じゃないですか?特殊な状況下に置かれた男女の恋模様は、映画の世界では幾度となく描かれている設定ですが、本作はそんな作品群の中でも漂う雰囲気が異質なんですよね。そこを完全には生かし切れていない。それが勿体なかったですね。でもそこがいいって人が居てもおかしくないのかな?


■樹木希林さんの名演技を見られただけでも大満足

アクセル神田
アクセル神田
ドラマ担当
ポイント:170/333|評価:GOOD

今は亡き樹木希林さんの名演技を見られただけでも大満足でした。あんな表情を祖母には絶対させたくないなと心から思わせられます。あの祖母として記者達に囲まれるシーンだけでも見る価値がある作品です。逃げている二人の悲しい恋と、こうした脇にあるシーンがマッチしているので、徐々に胸が締め付けられます。ただ、一部解釈を視聴者にに丸投げするプロットがあるのがマイナスです。とはいえ、悪い作品じゃありません。


■現状維持にしてたら逃げ切れないんじゃない?

近道 通
近道 通
オールジャンル担当
ポイント:164/333|評価:BAD

浅はかな女である石橋佳乃役の満島ひかりと増尾圭吾役の岡田将生のクズヤローっぷりが光ります。切ない恋物語と言えばそうなんですが、報われないのがわかっているお話なので、冗長です。本作が大きな変化があり得そうな含みを持たせた進展の仕方であれば、また感想も違ったんでしょうが……二人で逃げてから全てが現状維持なんですよね。祐一がそういう人間なのでしょうがないんですが、何か別の感情や行動も見せて欲しかったな。


メインレビュー

ネタバレありの感想と解説を読む

メインストーリーがサブストーリーに負けちゃダメ

橘 律
橘 律
メインレビュアー
ラブストーリー担当/最低評価

ラブストーリーとしては、もう一歩欲しかった感じの作品でしたねぇ。映画の中でずっと漂い続けている儚げな透明感は嫌いじゃないんですけど、結局は何にも考えずに短絡的な考えで二人で逃げ出しちゃっただけの話なんじゃないの?って思ってしまいました。

そこに悲恋の情緒があるんだぜい!と言うのも分かるんですけど、大人なんだからもう少し計画的に行動しようぜ!っていうツッコミをついつい入れたくなってしまう。

出会い系サイトで出会ってすぐに夜を共にし、もうお互い精神的に後がないからって二人で逃げ出して、そんでもって愛を貪り合いながら終焉を待つ。全てが行き当たりばったりなんですよね。二人の行動って。

そんなに一緒にいたいなら、いっそのこと海外に逃げちゃえばいいじゃん!もっと計画的に逃げればいいじゃん!って思ってしまった私がイカれてるんでしょうが、恋愛映画って如何に共感出来るかが大事なところがあるのでね。私はそこが納得出来ませんでした。

本作は破滅型の恋の美しさを分かってくれる人向けに作られた作品ではあると思うので、その部分では一定の評価する方もいるのかもしれませんが、私の目には彼らの破滅の仕方がだらしなく映るんですよ。

やっぱりある程度足掻く場面は入れてくれないと、これ破滅じゃなくて、自滅じゃね?って感じちゃいます。あと私、破滅型のラブストーリー、どちらかと言えば好物ですからね。自称破滅評論家としては、やや物足りなさを感じました。

って、文句ばっかり付けていますが、彼らの周囲で起きているサブストーリーは好きでした。

実は物語を通して一番可哀そうなのは、石橋佳乃の父親と祐一の祖母なんですよね。二人の逃避行の発端である殺された佳乃も可哀そうっちゃ可哀そうですが、増尾圭吾に蹴飛ばされて人通りのない道路に独りぼっちされた時、祐一がせっかく「送ってく」って声をかけてくれたのに、ストレス解消に「レイプされたって言ってやる!」みたいなことを言っているのでね。

こういう言動って、例え冗談でもこのご時世では男性にとっては笑えない。つーか、人生の一大危機だと言ってもおかしくない。そりゃ、頭があんまりよろしくない祐一なら、衝動的に殺しちゃうかもよというお話なんです。ここも祐一がお馬鹿さんじゃなければ、仮に警察に駆け込まれても、携帯でのやり取りを見せれば、冤罪だと証明出来るんハズなんですけどね。

しかも彼は、携帯電話で撮影した佳乃との行為前だかの行為後だかの映像も持っています。……って、それでもダメなんですかねぇ今の時代は。このシーンでふいに『それでも僕はやってない』を思い出しました。男の人は大変ですね。女も女で別なところで大変ですけど。

と、ちょっとばかし話が逸れましたけど、こうした理由もあって私はそんなに佳乃には同情していないんです。先に脅迫して犯罪を犯したのは彼女の方なんです。殺されても仕方ないとまでは言いませんが、祐一に酌量の余地が相当ある殺され方なので、割とこの子も悪人の一人だよなぁ……ってぐらいは思っちゃいました。

だから、石橋佳乃の父親と祐一の祖母が映し出されるシーンの方が心に刺さるんですよね。佳乃の父親は可愛い一人娘を理由も分からず失い、祐一の祖母は母親代わりとなって育てた孫を事件で失う。そしてさらには、加害者の親族として晒し物にさえされようとしている。

例え映画の世界であってもこういう老人の姿は見ていられないですね。主役である二人の逃避行よりずっと切なさを感じました。この二人のサブストーリーがなければ、多分あんまりなラブストーリーでしたって言ってたと思います。

実際、二人の悲恋の行方を見守りながらも、「それより、お父さんとお祖母ちゃんはどうなった!?」って心の中で叫んでいましたから。

本作はこの老人二人がいてこその逃避行なんです。当初は映画の本題のアクセントとなるハズだった副題の話が、本題に勝っちゃってる。これは失敗だったと思います。何しろ相手は柄本明とあの樹木希林ですからねぇ。他の出演陣も見事な演技力ですが、役者が違います。

さらに言えば、本題である逃避行劇のラストも何だかなぁという感じで、自分なりの解釈は出来ても真の解釈が永遠に解明できない終わり方なんです。2日間お通じが訪れずに迎えた3日目みたいな気分になりました(汚い表現でスミマセン)。

なんで祐一は最後光代の首を絞めたんだろ?あの状況じゃ意味ないのに……俺は人殺しの悪人だから俺のことなんて忘れろってこと?それとも本当に殺して自分だけのものにしたくなったの?

わからないです……

なので、私にとって本作は色々細かいところと、大事なところで少しずつズレた選択をしてしまったラブストーリー映画でございましたねぇ。良かった点と悪かった点を相殺しちゃうと普通の作品です。ただ、原作を読んでみたいなと思わせるお話ではありました。

本作の名台詞

俺…どうすればいいか わかんねぇ……

出典:悪人/VOD版

役名:清水祐一
演:妻夫木聡