邦画『愛しのアイリーン』/ド田舎の子供部屋オジサンが、勢いでフィリピン人女性と結婚したら人生変わった

スコア:780/999

愛しのアイリーン出典:スターサンズ
『愛しのアイリーン』


【あらすじ】

宍戸岩男は両親と暮らす独身の42歳。同居の母からは早く嫁を貰うことを望まれているが、一向にその気配はなく、同僚の吉岡愛子にもあと一歩でフラれてしまう。ヤケクソになった彼は嫁探しのためフィリピンへと向かう。


【作品情報】

公開:2018年9月14日(日本)/上映時間:137分/ジャンル:ラブストーリー/サブジャンル:ヒューマンドラマ/映倫区分:R15+/製作国:日本/言語:日本語・英語・タガログ語


【スタッフ】

(監督・脚本)吉田恵輔/(音楽)ウォン・ウィンツァン/(主題歌) 奇妙礼太郎『水面の輪舞曲』/(原作)新井英樹『愛しのアイリーン』


【キャスト】

安田顕/ゴンザレス – ナッツ・シトイ/木野花/品川徹/河井青葉/福士誠治/田中要次/桜まゆみ/伊勢谷友介


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※情報は【2020年07月16日】現在のものです。上記のボタンから本作品の再生ページに直接ジャンプ出来ます。各VODを選択してご利用ください。詳しくはこちらのページでご確認いただけます。

ポイントレビュー


■台詞的に防音設備のない部屋での視聴は音量注意です!

橘 律
橘 律
ラブストーリー担当
ポイント:305/333|評価:GOOD

ダイレクトな放送禁止用語を岩男が大声でがなり立てるシーンが時折挟まれますので、ご覧になられる際には音量に十分お気をつけください(笑)。いや、これ笑い事じゃなくて本気で注意した方がいいですよ。

イヤホンを付けて見るか、同じ室内に誰もいない時に見ないと、隣の部屋ぐらいには平気で筒抜ける勢いの通りまくる大声ですから。気持ちいいまでに明確な放送禁止用語の連呼なので、外で見てたら不審者扱いを受ける可能性さえあります。

物語自体は展開演出を含めて、大変味わい深い作りになっていて、必見と言ってもいいぐらいなんですが、この点だけがねぇって感じです……たまたまイヤホンが壊れていたので、アパートの隣の家の人を怯えさせてるんじゃないかと気が気じゃありませんでした。

いや、すみません、私嘘をつきました。もしかしたら、そのお約束シーンでの私の笑い声の方がデカかったかもしれません。笑うような内容の映画ではないんですけどね。ただ、ずっと重苦しい空気のままでいると、人間疲れちゃうものなんで、ああいった息抜きのシーンは精神衛生上かなり助けられました。


■主人公と同じような境遇だと見るのがキツイかも知れません

アクセル神田
アクセル神田
ドラマ担当
ポイント:250/333|評価:GOOD

作中でも言及されていますが、フィリピンではフィリピン人女性と外国人男性との結婚幹旋が違法とされていることを本作で初めて知りました。

試しに「フィリピン人女性 国際結婚」で試しにネットで検索してみたら、沢山業者さんが出て来たんですが、これは……作中で描かれていたような抜け道が現実でもあるんでしょうか?それか単身で日本にいるフィリピン人女性のみを紹介しているとか?

そういった豆知識的な部分を含め、色んな意味で勉強になった作品でしたね。無駄にエロシーンを差し込んでくるなと思われる時間帯もありますが、結果的にはそれにもきちんと意味があったんだなという印象です。

ですが、本作は独り身の男性が自宅で独りで見るには少々荷が重い話ではあるかもしれません。鬱映画とまでは言いませんが、そうした要素を孕んだ作品であることは、未見の方には事前にお伝えしておきたいところですね。


■結婚て何だろう?自由って、愛って何だろう……?

猿渡 りん子
猿渡 りん子
既婚女性代表
ポイント:225/333|評価:GOOD

実は私、ごく若い頃に一度だけお見合いパーティーに参加ことがあります!

一昔前のアイドルみたいな言い訳で申し訳ないですが、仲の良い友達が一緒に行こうって勝手に応募しちゃったんです。そして、見事に二人とも撃沈して、夜の街で寂しく二人で飲んだくれましたとさ。ちゃんちゃん。っていう、今時珍しくも何ともない経験談なんですが、何事も経験しておくものですね。

この経験があったからこそ、本作を見て当時の自分が如何に自由で恵まれた境遇であったのかを知ることが出来ましたから。それにしても、ヒロインであるアイリーンの集団お見合い会と比べれば、「お見合い」と頭に名前をつけるのも憚られるぐらい気楽なパーティーでした。

私の場合、お酒も食事も出ない座談会タイプだったので、年頃の男女に井戸端会議させて、後はご自由にみたいなもんです。そして何より、あそこには選ばない自由と選ばれない自由がありましたし。

そんな私と違い、本作のアイリーンは家族のために意地でも相手を見つけなければいけない、まさに背水の陣です。お国の文化の違いがあるとはいえ、そこは同じ女性として見ていて辛かったですね。

だけど、日本も今でこそ自由恋愛婚が当たり前ですが、昔は両親などが勝手に決めたお見合い婚が常識だったんですよね。私だって、ご先祖様がお見合い婚をし続けたからこそ生まれてきたんですし。そう考えると複雑ですね。私が思っていた以上に深い映画だったのかもしれません。結婚とは何か?について今一度考えてみたくなる作品でした。


メインレビュー

ネタバレありの感想と解説を読む

終盤のとある単語に、この映画の悲しみと愛が詰まってる……

橘 律
橘 律
メインレビュアー
ラブストーリー担当/最高評価

今更言っても遅いかもしれませんが、映倫区分でR15+(15歳未満観覧禁止)のレイティングが儲けられている本作は、お父さんにしてもお母さんにしても、ドンピシャの観覧可能最若年世代のお子さんと一緒に視聴するのが娘息子を問わずに、大変ハードルが高い作品となっております(笑)。

得も言われぬあの空気感はノーカット版の『タイタニック』のそれに酷似していますが、本作に関しては一瞬の苦しみでは済まない分、どうかVODをご家族で共有されている場合は、個々での視聴を強く推奨いたします。特に後半戦は「岩男ちゃん、もうそれすることないのかよ」っていう有様です。田舎エロです。

でも、そうなんです。主人公の宍戸岩男は冴えない40代独身男性というような描き方をされていますが、岩男ちゃん多方面でモテモテなんですよね。冒頭で怪しいオーラを放つオバちゃんの良江はもちろんのこと、岩男が憧れていた見た目に反して尻軽な吉岡愛子にしても、居酒屋デートの時にはすでに半落ちしていたんですもん。

もし、『やれたかも委員会』で審議に賭けたとしたら、ほぞを噛みつつながら、あのメガネ女もようやく「やれた」の重い重い棒付きフィリップ手を上げるレベルです。実際後半は理由はあったにせよ、やれちゃったわけですしね……

同僚の悪ノリで、愛子が岩男の誕生日プレゼントに渡したゴリラのぬいぐるみが、一度関係を持った良江のぬいぐるみと被ったことが発覚してしまった際にも、岩男は案外男で、「それは愛子さんから頂いたものです!」とやたら岩男は格好いいんです。

その時の悲痛そうな声だって、不器用な男の色気ムンムンなものですから、「え、この人なんでうだつが上がらない設定なの?もし私が愛子だったら、さらに惚れちゃうヤツじゃんね、これ」って思ったほどでした。

岩男は子供部屋おじさんではあるけれど、自分を溺愛しているお母さんや、認知症のお父さんのためにあえてそうしているだけに見えたし、ちゃんとパチンコ屋さんで同僚にボチボチ愛されながら働いているし、抑圧されているだけで表面的に見れば、欠点らしい欠点はないんですけどねぇ。

岩男のような、母性をくすぐるタイプの「自分への自信ゼロな男性」って希少で、それは天からしか授かることの出来ないモテ要素なのに、全くもったいないです。まぁ、その自覚があったら前半で話が終わっちゃうんですけどね。

とは言え、彼の不器用な生き方も理解出来なくはないんです。作中の岩男の状況って、精神的に完全に八方塞がりですもん。

人一倍強いリビドーを抱えているくせに、武骨な性格の影響でその発散の仕方が下手くそ。母親は岩男の結婚を望んでいるくせして、自分の理想にそぐわない嫁は絶対に結婚を認めない。父親は明日をも知れぬヨボヨボの認知症。かと言って、岩男は両親が嫌いなわけでもないから、今ある家族から離れることも無理。でも、性的な抑圧を常に感じながら生活している。愛と情欲の違い区切りがつけられないまま生きている。

とりわけ前半部分は、そうした岩男が抱える歪な心をこれでもかっていうぐらい描写しまくっています。一般的に言えば、岩男に感情移入しようがない状態である私でも、どよ~んとしたテンションになってしまったぐらいです。

そしてこうした胸の痛みを視聴者に一方的に与えながら、本作は本題へと突入して行くんですけど、ここからはヘタなフェミニストに見せたら、ガン切れのシーンの連続であることは間違いありません。大金を支払って現地のフィリピン人女性をその場で妻にしようとするくたびれたオジサン達と、家族のために日本人の妻になろうと必死に明るく振舞うフィリピン人女性達。

構図だけを見れば後者に同情が集まるのは火を見るよりも明らかです。最初は私もそうでした。ただ、よ~く見ると、作品としてはどっちの味方もしていない映し方なんですよね。岩男が適当にアイリーンを選ぶ場面も、アイリーンの実家に挨拶しに行く場面も、お金のために結婚させられるフィリピン人女性にすり寄って「可哀そうだね」っていう描き方はしていないんです。私としてはこの優れたバランス感覚がとても気に入りました。

岩男の行動は決して褒められたものじゃないですけど、アイリーンにも事情があるように、岩男にも事情があるんですからね。倫理的な方向に偏ってしまうと、こういうラブストーリーって一気につまらなくなってしまいます。

だって本作はその倫理を超えたところの愛を描こうという物語なんですもん。その部分の作品としての拘りみたいなものは、結婚後の岩男とアイリーンの行動や発言でしっかり感じることが出来ます。

アイリーンは、「これだけで一作映画撮っちゃえよ」ってほどに泣かせる場面に出てきた象徴的アイテムを葬式でぶっ壊すわ、初夜を拒否って電子レンジで岩男をあわや殺しかけるわのやりたい放題だし、岩男は岩男で、その初夜に選んだ場所がラブホテルだったりで、本当に自分の都合しか考えないどっこいどっこいの、ある意味お似合いのカップルとして描かれています。

ただ、この辺りから微妙に岩男が幸せそうなんですよね。もちろん、相変わらず、スケベ心には満ち溢れているんですが、その質的なものは徐々に変わっていく。アイリーンもアイリーンで、苦しみながらもどうにか適応しようとしていく。

全体の中で言えばかなり短い時間でしたが、この辺はニヤニヤが止まらない展開で、一気にラブストーリーとして引き込まれてしまいました。お神輿にはしゃぐアイリーンをチラ見する岩男の顔とか不覚にもキュンと来たほどです。

また、ここは彼らの脇を固める登場人物との触れ合いから二人の関係が進展していく様を眺めるという気楽なお話の流れでもあったので、どこか癒されたような気分にもなりましたね。会話が真っ直ぐなんです。現実の普段の会話のように心情をぼやかして話していません。

そんな会話の中では、特にフィリピンパブのホステスのマリーンが、自分の状況に悩むアイリーンに投げかけた一言に重みがありました。

「でも、望んだのも貴女でしょ?」

この台詞は、アイリーンが葬式の時に岩男母に放った「でも、望んだのは貴女の息子よ」が伏線になっていたことで、とても説得力がありましたね。岩男とアイリーンを中立的な視点で見る上で、彼女の存在は大きかったです。これで、細かい倫理的な問題は深く考えずに済むようになりました。これはつまり、良いも悪いもなく、お互いが決めた道なんだから、もうそのまま進むしかないじゃんってことでしょう。

キリスト教が根付いている国の女性に、十字架を持たせながら般若心経を教えるお坊さんは宗教家として流石にどうかとは思いましたけど(これは終盤のシーンではありますが……)、脇にいるこのような登場人物達による自然な道案内のおかげで、私は途中で迷子にならずに済みました。あざっす。

さてさて、このようにして本作は、数々のバックボーンをしょい込んだまま映画はラストに向けて、ある時急展開を見せるわけなんですけど、ここからの展開がほんのちょっぴり退屈なんです。

岩男のお母さんが屈折し過ぎです。仮に現在のお婆ちゃん世代の感覚で言っても、こうはならないじゃないかというぐらい異常なまでの息子に対する過干渉です。ここで主役が変わったかと思ったぐらい。

結果的に息子を不幸にしてしまっているし、言ってしまえばこの物語の結末はこのお母さんの手によって運命付けられたようなものですからね。少なくとも7割ぐらいはお母さんが悪いです。残りの3割は、2割が岩男で1割がアイリーンってところでしょうかね。ほとんどお母さんのせいで岩男は変態になっちゃったし、流れる映像も気まずい場面の繰り返しみたいになってくるし。

って、見ている間は岩男のように勢いを任せて、こんな風に文句をつけていたんですが……

まっこと面目ねぇでありんす。あたいが間違ってました。岩男は考えがあって行動してたんですね。お母さんも色々あったんですね。

手の平を返すようでアレですけど、一つ一つのシーンが必要不可欠な映画って凄くいいです。刹那的なラブシーンがいくらか長かったような気がしますが、ラストに向けてひた走る終盤を見れば、あの少し退屈に思える時間帯があったからこそ、岩男やアイリーンの苦しみが、欲と愛の物語が、視聴者にしんみりと伝わってくるのだと思います。アイリーンと岩男のお母さんが最後に話す場面なんかはその最たる例です。あの時アイリーンがお母さんに発した告白はカタコトだけど、最高の台詞でした。

嘘か本当か、あの場面を見ただけでは結論は出ないんですけど、ここには岩男の好きなあの単語が絶対に入っていなきゃいけなかった。まさか、あんな超ド級の下ネタンゴにモヤモヤ感を浄化させられ、感動させられるとは思いもよりませんでした。

社会派映画は好きですけど、本作の場合は変に社会派を気取らないでくれて良かった。本作を見て、倫理的な問題を考えるきっかけにするのもアリだとは思いますが、取り合えずはそこは頭の隅に置いて、エンターテイメントとして純粋に楽しんだ方がよっぽど本来の作品の味わいを楽しめるんじゃないですかね。

ということで、本作は核心部分とそこに紐づく伏線部分が、どう考えても地上波NGなので、VODかレンタルでご覧になって下さい。全PTAをドン引きさせたTVアニメ『下ネタという概念が存在しない退屈な世界』みたいに、この映画はピー音(ピーじゃなかったですっけ?)入れたら台無しです。あれはギャグアニメだからいいんです。

え?そこまで言ってんなら、どんな単語だったかここに書いてみろって?

嫁入り前の娘に何てこと言ってるんですか!!!

確かに耳年増とはもう言って貰えない年齢ですけどね……

あぁ、本作の最終場面の深さについて、メッチャ書きたかったのにあの単語が載せられないから書けないよ。不完全燃焼。あれ?私って下ネタ好きなのかしら?

本作の名台詞

アイリーン 愛してっど

出典:愛しのアイリーン/VOD版

役名:宍戸岩男
演:安田顕