邦画『青い春』/それぞれの青春時代の卒業の仕方

スコア:645/999

青い春出典:日活株式会社
『青い春』


【あらすじ】

一種の度胸試しとも言える『ベランダ・ゲーム』で、図らずも通っている高校の番長になった九條は、何処か人生に冷め切っていた。親友である青木はそんな彼を気にかけるが、ある事件を境に関係性が変わっていく。


【作品情報】

公開:2002年6月29日(日本)/上映時間:83分/ジャンル:ドラマ/サブジャンル:青春映画/映倫区分:全年齢/製作国:日本/言語:日本語


【スタッフ】

(監督・脚本)豊田利晃/(音楽)上田ケンジ,THEE MICHELLE GUN ELEPHANT/(主題歌)THEE MICHELLE GUN ELEPHANT『ドロップ』/(原作)松本大洋『青い春』


【キャスト】

松田龍平/新井浩文/高岡蒼佑(現:高岡奏輔)/大柴裕介/山崎裕太/忍成修吾/瑛太/塚本高史/小泉今日子/又吉直樹/マメ山田


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※情報は【2022年11月4日】現在のものです。上記のボタンから本作品の再生ページに直接ジャンプ出来ます。各VODを選択してご利用ください。詳しくはこちらのページでご確認いただけます。

ポイントレビュー


■高校時代にヤンキーではなかった人でも来るものがある

アクセル神田
アクセル神田
ドラマ担当
ポイント:231/333|評価:GOOD

しばらくは、淡々とした雰囲気で進んでいく不良モノといった雰囲気で進んでいくお話だったので、文学的な『クローズクローズZERO』みたいな作品(公開は本作の方が先です)かなと思っていたのですが、全く視点の違うお話でした。

青春真っ只中にいる高校男子のリアリティという面では、展開がかなり極端ではありますが、ありえなくもないのかもしれないっていう際どいラインを攻めています。

誰も彼もやっていることはアホなんですけど、どんより感が常に漂っているので、全体を通して重たい気持ちになってしまうかもしれません。

でも、元高校男子として青春時代を過ごした男としては、胸に迫るものがありましたね。細かいことを抜きにしてしまえば、本作はあくまでヤンキーの世界を描いた話なので、当時の私がいた世界とは随分違うのですが、根っこに抱えているものはそんなに違っていなかったんだなと、何だかしみじみとしてしまいました。


■出演俳優陣に注目しながら見る楽しみ方も……

近道 通
近道 通
オールジャンル担当
ポイント:244/333|評価:GOOD

映画の出演俳優陣の現在を意識しながら見ると、より深みが増すかもしれません。

正攻法な鑑賞の仕方ではありませんが、青春時代に将来のことを考えていても、考えていなくても、大人にならなきゃいけないって、とても難しくて怖いことだったんだなって……視聴者にとっては見ていると、そう思える部分が出てくるんじゃないですかね。

少なくとも私は公開当時ではなく、おっさんになった今見て良かったと思いました。たぶん、まだ10代の若者だった頃に見ていたら、独特ムードな不良映画としか感じられなかったでしょうね。

映画の影響で現在の自分を振り返って「あれ、なんで俺ってこうなったんだっけ?」っていう感想が出てきてしまうのは、30を超えたオッサンとしてどうなのかって話もあるんですが、まぁ、そこは本作にそれだけのパワーがあったということで、何とか誤魔化させて下さい。

30過ぎて一人称に「俺」もないですけどね(笑)


■トイレのシーンがめっちゃ怖い

猿渡 りん子
猿渡 りん子
お母さん代表
ポイント:170/333|評価:GOOD

私は生物学的に男子校には行けなかった身なので、作中の彼らの行動や心の動きに懐かしさを覚えることはありませんでしたが、そういえば、学生時代って別に楽しいことだけじゃなかったよね…って、思います。案外楽しんでいる振りをしていることの方が多かったような気さえもします。

そういうのは、この映画を通して感じることが出来ました。

思い出って美化されますからねぇ。おそらくあの時の私も彼らのように一応悩んで闇を抱えていたんでしょう……

いやいやいや、ないですね。それは。

映画に影響されて、つい、『精神的に深い学生時代を送った私』みたいに自分を美化しちゃいました。ただ、全部がお気楽にはいかないってことを分からせてくれる不思議なお話ではあります。

あとは、トイレのシーンの怖さがやたらと記憶に残っておりますね。と言うか、この映画の監督……トイレ好き過ぎです。だいたいはトイレを起点にしてお話が流れていくんじゃないかってぐらいに。

映画の内容的には水に流せないことばかりなのにね(←すみません)。


メインレビュー

ネタバレありの感想と解説を読む

上映時間より体感的に長く感じられるが、かなりの良作

近道 通
近道 通
メインレビュアー
オールジャンル担当/最高評価

一時間半もない映画ですが、本音を言えば結構長く感じたかな?ダラダラしてるとまでは言いませんが、話の展開の速さに反して、動きが概ねまったりとしています。

邦画の良くないところの一つに台詞をボソボソ喋るというのがありますが、本作もその例に漏れず、聞き取りずらい台詞が多々あるので、そこがかなりこうした印象に影響しているんじゃないでしょうか。

ただ、作品の空気感を維持するためにはそこは致し方ないよねぇと、許せるレベルではありました。演じている俳優陣も間違った演技力アピールでボソボソになっているというよりは、演出としてそう指示されてボソボソしている感覚。

バイオレンスなシーンも相当数差し込まれているのに、動きとしても派手さはなく、ヌメッとしています。

本当に一歩間違えば、ただ暗いだけの退屈な不良映画になってしまいそうなところを、ギリギリで回避している不思議な作品です。

テンポは悪くなかったはずなのに、妙に時間が経つのが遅く感じられたのは、おそらく製作側の狙い通りなんでしょう。

その点では、かなり出演陣を評価したいところです。主人公、九條を演じる松田龍平は相当良かった。現在の活躍も納得です。ゴリゴリの存在感を醸し出しつつも、物語の狂言回しとしてもキッチリ役目を果たしています。

この頃は彼が初出演した『御法度』の時のような妖艶さが残っているので、現在の松田龍平とは若干趣きがことなりますが、今よりも昔の演技が好きという方がいてもおかしくないほど、若く未完成な魅力がありました。

松田龍平以外にも本作の出演陣はかなり豪華で、出演カットは少ないけれど、重要な役どころで瑛太が出ていたり、チャンバラの切られ役に毛が生えたような役どころで、ピースの又吉(当時のコンビ名は「線香花火」)が出ていたりと、そうした意外な発見があって、彼らのサクセスストーリーを見て来た世代としては、そういうお得感もあるでしょう。

この要素には、私もかなり救われて、あぁ当時はこんな扱いだったんだと感心させられました。ピースの又吉なんかは、言われるまで気が付かなかったぐらいで、これが後の芥川賞作家かと思って見ると、映画の内容も手伝って、なかなか感慨深いものがありましたね。

本作のこうした部分にはかなり私自身も救われました。やや退屈になりかけた時に彼らのような出演陣が何度も背筋を正してくれるっていうのはいいですね。

『打ち上げ花火下から見るか横から見るか?』の山崎裕太、『夜王』の忍成修吾。そして、『ロボコン』『木更津キャッツアイ』の塚本高史と。このあたりの俳優がサブキャラとして登場しているのも懐かしい気持ちに拍車をかけてくれました。

俳優として、今現在も活躍している方々ですが、自分の世代からすると、一緒に歳をとってきたような役者さんではあるので、感動もひとしおなんです。

高岡蒼甫(現、高岡奏輔?)なんかもそうですが、松田龍平を除けば、作中の若手俳優の中では一番勢いがありそうだったのに、何やかんやがあって、画面上で姿を見かけることは少なくなってしまい、これもまた、個人的には本作にノスタルジーを感じざるを得ない一因となっています。

もうあとは言わずもがなの本作の準主役新井浩文が印象として残るわけですが、彼らについてはどうコメントしていいのか迷うところです。

ただ、作品と出演者の素行は全く別の評価をしなくてはいけないと私は考えているので、本作での彼の演技は必要だったと思います。代わりになる人間があまり思い当たりません。それだけに実に残念です。

ただ、おそらく本作も地上波で放送されることは難しいでしょう。そうした作品が見られるのもVODサービスのメリットではありますが、賛否両論があるのも分かります。

さて、なんだか作品とは無関係な方向に話が進みそうなので、ここでそんな本作の個人的MVP俳優は一体誰なのか?というのを発表したいと思います。

それは教師役のマメ山田です。彼の登場シーンに本作の論点がかなり凝縮されています。製作側の意図は違うのかもしれませんが、私自身の中では彼の演技力に吸い込まれ、「こういうことが言いたい作品なのだな」と感じました。本作で名前を初めて知った俳優さんですが、彼の出演作を他にも見てみたいですね。

しかし、色んな意味でレビューの書きにくい作品です。

作中に流れる『THEE MICHELLE GUN ELEPHANT』の曲は最高に映画にマッチしていたし、原作があの松本大洋の短編作品で『ピンポン』とかと比べてみたりとか、書きようはいくらでもあるハズなんですけど、どうもそういう観点から感想を書ける気がしない。

ホントに雰囲気が変わっているんです。映画としては雰囲気が特別としか言いようがない。多分このことは、見た方になら何となく分って頂けると思います。北野武監督の名作『キッズ・リターン』なんかが好きな方には非常に向いている作品なんじゃないでしょうか?

あちらもそんな感想を書きにくい雰囲気で押し切る映画でしたから。私は『キッズ・リターン』に衝撃を受けたタイプの映画なので、本作も好きです。どちらが好きかと言われれば、流石に『キッズ・リターン』に軍配をあげますが。

本作の名台詞

自分の欲しいものを知ってるヤツは怖いです

出典:青い春/VOD版

役名:九條
演:松田龍平