洋画『女神の見えざる手』/視聴者さえも彼女の手のひらで転がせられちゃう?

スコア:861/999

女神の見えざる手出典:キノフィルムズ
『女神の見えざる手』


【あらすじ】

手段を選ばないロビイストとして業界でも有名なエリザベスは、銃規制に関する法案を潰す依頼を断り、逆に法案を通す側から依頼を受けた小さなロビー会社に移籍。元勤務先である大手ロビー会社との攻防戦が今始まる。


【作品情報】

公開:2016年11月25日(アメリカ限定公開)|2016年12月9日(アメリカ拡大公開)|2017年3月8日(フランス)|2017年10月20日(日本)/上映時間:132分/ジャンル:サスペンス/サブジャンル:ビジネス/映倫区分:全年齢/製作国:アメリカ・フランス/言語:英語


【スタッフ】

(監督) ジョン・マッデン/(脚本)ジョナサン・ペレラ/(音楽)マックス・リヒター


【キャスト】

ジェシカ・チャステイン/マーク・ストロング/ググ・バサ=ロー/アリソン・ピル/ マイケル・スタールバーグ/サム・ウォーターストン/ジョン・リスゴー/デヴィッド・ウィルソン・バーンズ


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※情報は【2022年11月5日】現在のものです。上記のボタンから本作品の再生ページに直接ジャンプ出来ます。各VODを選択してご利用ください。詳しくはこちらのページでご確認いただけます。

ポイントレビュー


■こんなに魅力的な主人公っていて良いの?

試文 書人
試文 書人
サスペンス担当
ポイント:288/333|評価:GOOD

一緒に働きたいような、働きたくないような、個人的にはただ単に働きたくないだけのような、そんな感情をこれでもかというほど揺さぶってくれる主人公による、主人公ありき、主演女優ありきの映画。

いや、そんなことないか。そんな主人公の魅力を最大限に演出するストーリーもガチでお見事の一言。政治、人生、生き様、三要素の配分が実に素晴らしい。

ありがちな強い女を描きたいだけの作品かと思いきや、そんなチンケなもんじゃない。

男勝りの働く女子の物語?超やり手キャリアウーマンの奮闘劇?ノンノンノン。

そんなことを彼女の前で言おうものなら、「働くことに男も女もないでしょう」って冷たく突き放されて即刻終わりですぜ。

さっき言ったように物語としてのサスペンス性ももちろん一級品なんだけど、この映画の魅力は、やっぱり彼女という存在を構成する一つ一つに凝縮されているって言わざるを得ない。脚本の中の存在が脚本を超えてしまうってこういう事を言うんだと思う。

もし俺が就活生で人事面接官が彼女だったら、速攻帰る。自己紹介もせずに帰る。何なら次の人のためにパイプ椅子も片づけてから帰る。それぐらいドライで、目ん玉が飛び出るほど有能。でも、それでいて完璧ではないっていうね。

いやいや、久しぶりに見たよ、こんな魅力的な主人公。現実にいたら、絶対一緒に飲みに行きたくないけど。是非、再生ボタンを押して彼女に会ってみて下さいな。


■良い意味で脳みそが疲れる映画

近道 通
近道 通
オールジャンル担当
ポイント:267/333|評価:GOOD

憲法や政治的な専門用語、そして、扱っている題材そのものがかなり難しい問題なので、非常に頭を使わされます。しかも、台詞のやり取りとそのテンポが異常に早い。こんなの不親切だよ!と文句をつける暇もないほど。

そんな作品なので鑑賞後にはドッと脳みそから汗が湧き出ましたが、自分の頭が凄く良くなったような勘違いした気分にもさせてくれるので、後味は爽快そのもの。ストーリーとしては明るくなくて、むしろ暗い部類に入るんですがね。

ただ、難し過ぎて良く分からなかったって感想が出そうな作品ではあるかもしれない。相当気合いを入れて見る必要はあるんじゃないかな。大まかな部分理解するのに私自身も相当苦労しました。

これが芸術性が高すぎて理解に苦しむって映画だったのなら、簡単に諦めも付くんですが、なんか全部を理解しないと悔しい気持ちにさせてくれる映画なんです。良い疲れではありましたが、見た後少しグタリとなるかもしれません。

本当に台詞を追うのに必死にならなきゃいけない映画なんで、映画だけに集中できる時に見ることを強くオススメ致したいところです。


■アメリカの政治の事前知識を入れておくと効率的!

橘 律
橘 律
女性代表?
ポイント:306/333|評価:GOOD

視聴中、何回一時停止ボタンを押したことか、何回、10秒巻き戻しボタンを押したことか、上映時間は2時間ちょっとなのに、見終えるまで多分3時間以上かかったと思います。

でもそれだけの価値はありましたね。あんまし泣くような映画ではないんですけど、エンドロールを迎えた時には、達成感とラストの感動が混ざり合って、目からお吸い物がでました。うん、しょっぱかった。

これ、絶対見た方がいいです。サスペンスが苦手って人にも一度は挑戦してみてほしい映画です。大丈夫!時間はかかったけど、アホアホな私でも楽しんで見られましたから。映画が終わった後にほっこりした気分にはならないかもしれないけど、満足は出来ますから。

あ、普通の人にとっては常識なんでしょうけど、アメリカの憲法について事前に軽めのお勉強をしておくと、私みたいにスマホで忙しく検索しながら、見なくて済みますよ。

確か、えーと、『アメリカ合衆国憲法修正第2条』『アメリカ合衆国憲法修正第5条』を抑えておくと良かったんじゃないかな?

あぁ……もう人に説明が出来ない程度には忘れっちゃってる。少し前まで完璧だったのになぁ(嘘)。


メインレビュー

ネタバレありの感想と解説を読む

私も彼女のように「信念」を持って生きていこう

橘 律
橘 律
メインレビュアー
女性代表?/最高評価

私の周囲の評価を聞いた限りでは、衝撃のどんでん返し的な部分ばかりが感想として挙げられているんですが、個人的にはそこは違うんじゃないかなと思っています。本作の衝撃的な部分は実は別なところにあるんじゃないかって。

映画では、彼女の違法行為についての判決は出されますが、銃規制の法案が通ったかどうかについては結論が最後まで出されません(たぶん、無事通ったんでしょうけど)。

っていうか、そこの部分は視聴者の想像にお任せしますというスタンスさえ取っていないんです。むしろそこは主軸じゃないよね?大事な問題だけど、この映画ではそこがメインじゃない作品だからいいよねって雰囲気で物語は幕を閉じます。

銃規制というアメリカ社会にとって重いテーマを取り扱っていたので、視聴の序盤では、銃規制の可否について問題提起をしながら、彼女の手段を選ばないやり方についても、視聴者に同時に問いをかける映画なんだって勝手に思い込んでいました。

でも、実は中盤あたりから、真に本作が伝えたかったことはそこじゃないんだよって流れになって来ていたんです。見ている際中は筋を追うのに一生懸命だったので、気が付きもしなかったんですけど、衝撃のどんでん返しのシーンを見た瞬間に、あ、これ単なる政治サスペンスじゃないんだって、ふと気づかされてしまいました。

もちろん、サスペンス映画の仕掛けとして、あのどんでん返しは素晴らしいと思います。同ジャンルの作品を見慣れている方だと、もしかすると、読めるラストなのかもしれないけれど、少なくとも私には読めませんでした。「あぁ、またやられたな」と額に手を打ちたい思いでした。

でもでも、そこからもう一歩進んで考えてみると、アレ?ってなるんです。この映画って、法案が通せるか通せないかの話なんじゃなかったっけって。

そうなんです。気が付いたら、この映画は、ロビイストという存在と、彼らのターゲットである政治の世界そのものの根本的な問題についての映画になっていたんです。私にとっての深いところでの衝撃のどんでん返しはまさにそこでした。

全く無駄のない彼女の策謀にも恐れは入りましたが、一つの作品としての策謀にはもっと恐れが入りました。水戸黄門で「ははぁ~」と黄門様に頭を下げて話が済んだと思ったら、さらにその後ろから将軍様が出てきた感じです。

これって凄いことじゃありませんか?こういう政治問題系の作品としてはスタンディングオベーションしても良いぐらいに。

銃規制はとっても大きな問題です。多分、アメリカの方も本作を見て、そのことについて自分の思想と照らし合わせて様々な思考を巡らせたことと思います。

でも、その問題の根本にある問題……もっと大きな問題が実はあるんだよってこの映画は最後に言っているんです。『信念』がないところで、大切な大切な問題が決められてしまっているんだよって。

この解釈は間違っているのかもしれませんが、それがこの映画の本当のどんでん返しなんだって私は思っています。

最終的に主人公のエリザベスは、自らをも犠牲にすることで彼女自身の『信念』を貫き通し、それを視聴者に指し示すことで、その根深い問題を提起したんです。無論、全てが予定通りではなく、途中、思わぬ事態もありましたが、彼女にとっては、概ね夜神月もビックリの「計画通り」の結末です。

あのサスペンスエンターテイメントとしてのどんでん返しだけでも十分素晴らしいのに、映画として、作品としてのどんでん返しまで策を巡らせて、ここまで完璧にやり遂げている映画ってなかなかないんじゃないでしょうか?

私の場合、映画を見る時って出来れば頭をあんまり使いたくないんですけど、頭を使って良かったなって感じさせてくれる映画ってあるんですよね。本作はまさにその最たる例だと思います。

こうして、私はエリザベスの術中に二度もハメられてしまったわけですが、こういうハメられ方なら、悪い気はしません。

一人の人間として、女性として、作中の彼女のやり方は決してホメられたものではありませんが、彼女みたいな『信念』を持った人間って好きです。哀しいかな、正しいことだけをしていても、人の心を掴むことって出来ないんですよね。

彼女みたいな生き方は私には絶対に不可能だけど、自分の『信念』ぐらいは決して忘れないようにして、これからは生きて行こうと思います。

さぁ、明後日ぐらいから色々頑張るぞ!

「無理だけはしない」

そう、これが私の『信念』ですから。

本作の名台詞

仲間は少ない方がいい

出典:女神の見えざる手/VOD版

役名:エリザベス・スローン
演:ジェシカ・チャステイン