韓国映画『監獄の首領』/仮釈貰えない方が嬉しい囚人も世の中にはいるんですね

スコア:651/999

監獄の首領出典:クロックワークス
『監獄の首領』


【あらすじ】

元刑事のユゴンは問題行動により刑務所に収監され、胸に付けられた要注意人物の証である黄色の名札の影響で他の囚人達から目を付けられいたが、所内を一手に統率している囚人トクホによって犯罪の才を見出される。


【作品情報】

公開:2017年3月23日(韓国)|2018年01月13日(日本)/上映時間:125分/ジャンル:アクション/サブジャンル:クライムサスペンス/映倫区分:NR/製作国:韓国/言語:韓国語


【スタッフ】

(監督・脚本)ナ・ヒョン/(音楽)パン・ジュンソク


【キャスト】

キム・レウォン/ハン・ソッキュ/チョン・ウンイン/イ・ギョンヨン/チョ・ジェユン/シン・ソンロク


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※情報は【2020年03月01日】現在のものです。上記のボタンから本作品の再生ページに直接ジャンプ出来ます。各VODを選択してご利用ください。詳しくはこちらのページでご確認いただけます。

ポイントレビュー


■ジャンルに固執しないオールラウンドな映画

山守 秀久
山守 秀久
アクション担当
ポイント:282/333|評価:GOOD

全体的に映像が暗いです。ただでさえ韓国映画は暗く重い雰囲気をかもし出すために映像から明るい光を排除する傾向があるのに、監獄という舞台設定が加わったことでそれに拍車がかかっています。

ただ、「見にくい」まではいかないギリギリのところで踏みとどまっているのが、本作品の優秀なところです。囚人達のいざこざや、裏切り者への制裁は、基本的に薄暗いところで行われますが、何をしているのかはわかります。

むしろ、これぐらい暗くしてくれないと、見るに耐えられなくなるような残虐シーンもあったぐらいなので、この辺りの処理の仕方には非常に巧さを感じました。

また、物語としてのバランス感覚の良さが際立った作品で、アクションに寄り過ぎず、サスペンスにもより過ぎず、人間ドラマにも寄り過ぎていなかった点も、こうした題材の脚本としては好印象です。

監獄という封鎖的な舞台の中では、上記3つのジャンルの内のいずれかにスポットを当てることが多く、そのせいでエンターテイメント性が損なわれてしまうことがしばしばありますが、本作品に関してはほぼ均等配分で、娯楽性を平均値以上に確保しています。

オールラウンドな映画が好みだという方にはとても向いている作品です。監獄という隔絶された世界観の中で、こういった構成のお話になるのは貴重なケースだと思います。


■こんな発想良く思い付いたなぁ…実際にありそうで怖い

試文 書人
試文 書人
サスペンス担当
ポイント:187/333|評価:GOOD

囚人と看守をまとめ上げて塀の外で犯罪を行えば、何をしても捕まらない。なぜなら、実行犯には完全なアリバイが成立するから。

これは思い浮びそうで、意外と思い浮かばない発想だと思う。塀の外、あるいは中から指示が出て、刑務所内の囚人を殺すという作品はよくあるが、看守をまるっと丸め込んで、配下の囚人達を外出させ、外の人間を殺させるって話はあまり見たことがない。

それゆえ、プリズンギャングをギャング側の視点から描いた作品としてはなかなか新鮮だった。

ただ、このVシネマのようなこの邦題はどうにかならなかったのだろうか?

VODのジャケット画像も、もろヤーさんの集まりって感じだったから、もしかしたら小沢仁志出てくんのかと思って、気が気でなかったよ。原題の『THE PRISON』のままで良かったんじゃない?


■主要メンバー以外の顔の見分けに四苦八苦

近道 通
近道 通
オールジャンル担当
ポイント:182/333|評価:GOOD

首領のトクホは、一目で首領とわかるように配慮しているのか、一人だけ別色の囚人服を着ているので、パッと見分けが付きましたが、他の囚人達はもれなく全く同じの色の囚人服を着ているので、主人公のユゴンと序盤の囚人房のボス以外は、人物の見分けるのにかなり苦労しました。

あれ、コイツ何してたヤツだっけ?って。

これには本作の出演者が日本ではあまり見慣れない韓国俳優ばかりであったことも影響しているだろうけど、このせいで、細かい部分が頭に入って来なかった感はあります。

少なくとも全員が同じ服装をしている邦画の『刑務所の中』や『極道めし』は見分けがついたから、服のせいじゃないですね。出ている役者を知っているかどうかってだけの話です。

とは言いつつも、話の大筋は掴めたし、韓国映画の「あるある」シーンも盛り沢山だったかので、大雑把には満足出来たっちゃ出来たかな。特に韓国映画でお馴染みの「こんな死に方は絶対したくないシリーズ」はそれなりに良かった。

あと特筆すべきは、主人公のユゴンが途中からテニスの錦織圭に見えて仕方なかったことでしょうか。でも、これはこちらの問題なんでね。ある意味、日本人「あるある」かもしれません(笑)。


メインレビュー

ネタバレありの感想と解説を読む

思っている以上に計算された伏線が張られている作品

山守 秀久
山守 秀久
メインレビュアー
アクション担当/最高評価

頭からつま先までしっかりと見たという方には、ほんの数分のあのラストシーンが輝いて見えると思います。

ユゴンが初めて刑務所に移送されてきた時、やけに要注意人物を示す黄色い名札が付けられていることが注目されていましたが、あれは実は大事な伏線だったんです。

黄色の名札の話題は物語が進行していくと通常色の白変わり、その話題にはほとんど触れられなくなっていきます。私もラストシーンを見るまでは、「この名札の設定はちょっと余計だったんじゃないかな?トクホの仲間になって白になってるし」と思っていました。

ユゴンは目的があって黄色い名札を自ら付けたのだと思いますが、最初から注目されなくても、いくらでも刑務所内で目立つ方法はありますから……

それに最初から目立ってしまうと、水面下で計画的に準備を進めることが逆に難しくなってしまいます。ですから、完全にあれは演出上のミステイクだと感じていました。

ですが、違うんです。ラストシーンを見ればそのことが分かります。崖の上で急に饒舌になる被疑者のように、訥々とことの顛末を語られても、スッキリ感は得られませんが、こういう風にさりげなく結末とテーマを締めくくってくれると爽快です。

また、色違い繋がりでは、『監獄の首領』であるトクホも違う色の囚人服を着ています。

韓国の刑務所では実際に模範囚は服の色が違うですとか、刑務作業場での役割を色で表したりしているのかもしれませんが、作中ではこの色の違いの理由については、余り語られていません(刑務所の嫌味なお偉いさんが、トクホが模範囚であることに名札を見て気づくシーンはあります)。

こちらについても、単に目立ってしまってかえって首領としての仕事がやりにくくなるだけなんじゃないかと思いましたが、またまたこれがラストシーンのキーアイテムになっていて、名札との組み合わせで、これはこれは参りましたという感じです。

このラストカットに持っていきたかったからこそ、数々の伏線や悪人特有の名台詞が作中に散りばめられていたのでしょう。

ただ、トクホが何故一匹オオカミで、どうやって、あそこまでのし上がって来たかかが、全くの謎のままで終わってしまっているのは残念でした。

多少強面ではありますが、博打に負けて飲んだくれてそうな普通のオッサンが、マンガ『刃牙シリーズ』のビスケット・オリバ張りに塀の外と中を巧みに支配しているんですから、視聴者がその理由を知りたくなるのは当然です。

トクホ主役で『監獄の首領 ZERO』のようにプロローグ的な映画を作る予定があるのかもしれませんが、もう少し過去について語ってくれても良かったかなと思います。

とはいえ、それ以外は大きな荒はない作品です。声を大にして「お気に入りの映画です!」とまでは言い切れない映画ではありますが、もし、「韓国映画でニクいラストシーンの映画は?」と聞かれたら、本作を挙げる可能性は十分あります。

ラストが良いってことは、映画としても良いってことですから、大体の人は見て損な気分にはなることはないと思います。

繰り返しになりますが、是非、序盤から終盤まで名札の色と服の色の組み合わせに注目しながら、ラストシーンまで見てみて下さい。そこで流れる締めの台詞にも要注目です。

本作の名台詞

ここでも人間が暮らし 同じ時が刻まれている

出典:監獄の首領/VOD版

役名:チョン・イクホ
演:ハン・ソッキュ