スコア:808/999
出典: 日活
『凶悪』
【あらすじ】
死刑囚須藤から届いた手紙により、記者の藤井は通常の取材の一貫として彼と面会する事になるが、彼の口から聞かされたのはまだ明るみにされていない驚愕の余罪についてと、『先生』と呼ばれる影の主犯の話であった。
【作品情報】
公開:2013年9月21日(日本)/上映時間:128分/ジャンル:サスペンス/サブジャンル:実話原作,クライムサスペンス/映倫区分:R15+/製作国:日本/言語:日本語
【スタッフ】
(監督) 白石和彌/(脚本)高橋泉,白石和彌/(音楽)安川午朗/(原作)新潮45編集部編『凶悪 -ある死刑囚の告発-』
【キャスト】
山田孝之/ピエール瀧/リリー・フランキー/池脇千鶴/村岡希美/小林且弥/斉藤悠/範田紗々/松岡依都美
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見放題配信
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ポイントレビュー
■作品のアラ探しを見つけようとするも完敗
ポイント:256/333|評価:GOOD
これぞ日本が誇れるサスペンス作品だと言えるだろう。アラらしいアラが全く見当たらない。強いて言うとすれば、本作が実話を元にした作品ではなく、誰かが頭の中で編み出したフィクションだったら、もっと良かった。
実話だって知って観るとどうしても、物語全体の質が底上げされてしまうからね。本当にこんな事件が平和な日本で起きていたなんてことも想像したくないし……
いや、でもこの感想は蛇足ですな。いいもんはいい。ケチの付け所が多分どっかしらにはあったんだろうけど、本作は、作品のアライジリが趣味のこの俺が、そんな悪癖をおくびにも出さずに見終えることが出来た超良作である。はい、参りましたよっと。チックショー、なんか悔しいな。
■無意味な脚色が一切ない実話原作邦画の逸品
ポイント:289/333|評価:GOOD
1999年の『上申書殺人事件』をベースにした実話映画化作品ですが、大げさに脚色されている部分がほとんどないのではないか?と思えるほど、リアリティある描写と演出で作品が作られています。
また、記者側からの視点と、犯人側の視点から見た事件の全容の映し方のバランス配分が秀逸で、どちらかに偏った作品になっていません。ジャーナリストが真実を深く追及していく語り口で展開される作品は概して、『正義』というテーマの呪縛から離れにくいものですが、本作はその部分よりもリアリティと実話性を重視しています。
雰囲気も邦画でしか描けない独特のものがあって、似た雰囲気の作品を洋画で例にあげるのは難しいのではないでしょうか?その上、そこで演じる出演陣もクセ者揃いです。映画としては、一見の価値アリどころか、見終えた後、つい原作となった事件について調べたくなるレベルに達しています。私も初見時はすぐに調べたクチです。本作も凄まじかったですが、事実もまた凄まじかったです……
■邦画対洋画の主力選手にしたくなるようなクオリティ
ポイント:263/333|評価:GOOD
こんなことを言うと怒られてしまいそうですが、個人的に邦画ってどんなジャンルであってもどうしても無意識に甘めに評価してしまうところがある気がするんです。きっとそれは私自身が心のどこかで「やっぱり邦画は洋画にどっかで負けちゃってる」と思っているからなんでしょう。
日本で生まれた日本人として、やっぱり日本で作られたものは贔屓目で観てあげたい気持ちがどこかで働いてしまいまうんでしょうね。感想を書く人間としては問題が大アリの心理です。
そんな私なので、本作に関してもその例に漏れず、知らず知らずの内に何とか良い所を見つけよう見つけようと観ている自分がいたと思うのですが、本編が開始して数分でそんな不公平な目線は消し飛んでしまいました。
視聴者を引き込む力が凄いんです。格好付けて言うなら「知的好奇心」、子供じみた表現をするなら「怖いモノ見たさ」、その圧力が終始迫って来る作りになっているので、観ると疲れては来るんですが、続きが気になって観るのを止められない。休憩も挟めない。
それに輪をかけて素晴らしいのはそこに「邦画だから味わえる」という枕言葉がつくところです。本作に勝てる邦画サスペンスはおろか、洋画や韓国映画でも「ホイこれ」とは例に挙げるのは難しいですね。やられました。残酷な描写が極端に苦手な方を除いては必見の一作です。
あえて謎の上から目線で言わせて頂きますが、こういう作品があるなら、もう邦画にやさしくする必要はなさそうですね。
メインレビュー
- ネタバレありの感想と解説を読む
人を殺した凶悪犯罪者と殺されてしまった被害者の間にある埋め難い溝
メインレビュアー
ドキュメンタリー担当/最高評価ポイントレビューでも申し上げましたが、本作は『上申書殺人事件』という実際に日本(茨城県)で起きた事件を元に描かれています。
作中で『明潮24』と名付けられていたスクープ誌は、かつて新潮社が発行していた『新潮45』という(現在はほぼ廃刊状態の休刊)月刊誌がモデルになっており、これを『新潮45』がセンセーショナルな形で広く報道したことにより、世にも珍しいケースの凶悪事件として広まりました。
でも、この事件、私自身は映画化が決まるまでほとんど全容を知りませんでした。死刑囚が告白したことで、新たに逮捕された人物がいるということぐらいは、耳にしていましたが、内容はさっぱりの状態です。
ドキュメンタリー好きの人間として、ミステリアスな事件に関してはそこらの珍しい事件ファンなどに負けることはないと自負していたんですが、お恥ずかしい限りです。わたしなどニワカ中のニワカのヒヨッコ中のヒヨッコです。両親は知っていましたから。
ただ、言い訳がましいようですが、私と同年代の人間に聞いても、本作が公開されるまで、この事件のことを知っている人がほとんどいませんでした。
実際の事件が起きたのが、1999年。新潮45が編集を入れて凶悪犯罪ドキュメントとして、文庫化したのが2009年。それを原作に製作された本作が公開されたのが2013年と、かなり事件から時間が経っているので、致し方ない部分はあるにせよ、本事件は暴力団絡みの事件でもあり、もっともっと世間に知られるべき事件であったのではないかと私は思うのです。
しかも『上申書殺人事件』にカテゴライズされる、三つの事件、『石岡市焼却事件』『北茨城市生き埋め事件』『日立市ウォッカ事件』を影で操っていたと言われる「先生」こと三上 静男(映画内では木村孝雄)は、不動産ブローカーという職業の人間ではあるものの、暴力団員ではない一般の人物です。
暴力団員と密接な関係になり、暴力装置的な力を得ると、一般の人物でもここまでの凶悪犯罪を犯せてしまうというのは、危機管理の面でも徹底して世間に周知されてしかるべき情報なのではないでしょうか?
それだけに本作のような高いクオリティでの情報と注意喚起の再発信は、映画としての評価を超えて大いに賞賛されるべきことだと私は思います。特に上申された事件の内、唯一裁判で認定された『日立市ウォッカ事件』に関しては、「先生」に依頼した被害者家族の3人も一般人です。
彼らも保険金殺人の依頼者として懲役13年から15年の刑を言い渡されていますが、一般人は反社会勢力を利用してはいけない、関わってはいけないとしつこいくらいに喚起している現代日本において、これほどまでに、その理由の実例としてふさわしい事件はない気がします。このような現実の日本社会へのメッセージ性という面においても、本作は極めて強いパワーを持った作品だと私には感じられました。
また、もっとも評価されるべきは、本作の須藤純次のモデルである水戸市男性殺害事件及び宇都宮男女4人死傷事件で死刑囚となった後藤良次(2023年2月現在収監中)が、なぜ『上申書殺人事件』を告発したのか?という点について、一定の答えを作中で出していた点です。
確かにこの部分は、本作の主題ではなく、あくまで全体の一側面に過ぎません。ですが、この部分に一つの見解を出したからこそ、本作は完璧な結末に辿り着いたと言えるでしょう。
そして、本作にはさらにエンドロール前に、本作のメインテーマと先ほど触れたサブテーマについて、木村孝雄(三上静男)が私見を述べるシーンが用意されています。
物語の核心の迫る最高のシーンです。ここでも人を殺した凶悪犯罪者と、殺されてしまった被害者の間にある埋め難い溝について語られています。必見です。すでに視聴済みの方でも、どんなシーンだったかうろ覚えであれば、振り返ってもう一度このシーンだけでも見直す価値があると私は思います。こういう事が出来るのがVOD見放題ならではの良い所です。
なんだか最後、回し者みたいな締めくくりになってしまいましたが、本作は息が抜けるところが少ない作品なので、これぐらいの横道話はお許し頂ければ幸いです。
本作の名台詞
よし……! ブッ込んじゃお
出典:凶悪/VOD版
役名:須藤純次
演:ピエール瀧