洋画『8 Mile』/ラップバトルにかける人生というライム……エミネムの半伝記的映画

スコア:669/999

8 Mile出典: ユニバーサル・ピクチャーズ
『8 Mile』


【あらすじ】

デトロイトの貧民都市で男にだらしない母と可愛い妹と暮らすラビット(ジミー)は、8マイル・ロードと呼ばれる黒人と白人がいがみ合う地域にいながらも、白人黒人の両方の友人達に恵まれ、ラップバトルに参戦する。


【作品情報】

公開:2002年11月6日(アメリカ)|2003年5月24日(日本)/上映時間:110分/ジャンル:ミュージカル/サブジャンル:伝記映画/映倫区分:NR/製作国:アメリカ・ドイツ/言語:英語


【スタッフ】

(監督)カーティス・ハンソン/(脚本)スコット・シルヴァー/(音楽)エミネム/(主題歌)エミネム 『Lose Yourself』


【キャスト】

エミネム/ブリタニー・マーフィ/キム・ベイシンガー/クロエ・グリーンフィールド/アンソニー・マッキー/メキ・ファイファー/エヴァン・ジョーンズ/オマー・ベンソン・ミラー/ユージン・バード/マイケル・シャノン/タリン・マニング


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ポイントレビュー


■ラップバトルだってミュージカルじゃないか!

橘 律
橘 律
ミュージカル担当
ポイント:257/333|評価:GOOD

ミュージシャンの半伝記的映画となると、ジャンルの仕分けに迷いしかありませんが、エミネムの伝記的な部分よりも、ヒップホップの文化、ラップバトルのシーン等の構成の仕方に気合いと気概と想定外の感動があったので、わらわのゴリ押しでこれはミュージカルであると言い切ってしまおうと思います!

そして、蓮舫さん……特段思い入れはないですが、仕分け界の先輩として今後尊敬していきたいところです。

本作の見所は何と言ってもラップバトルに尽きます。そこで映画としてのストーリーテーマを丸ごと集約することにも成功していまし、細かいバックボーンも無駄にしていません。

ヒップホップやラップミュージックに詳しくはありませんが、これほどのものとは思いませんでした。もうこれは一種のスポーツ競技や格闘技と言っても過言ではないくらい即興でバトリまくります。ジャズも即興演奏が一番の魅力ではありますが、ジャズのそれが音楽との対話なら、ラップのそれはタイマンです。

もしかしたらラップミュージックって、拳で語り合うのもカッコイイいいけど、それだと痛いから口先で殴り合いましょうという優しさから生まれたのかもしれませんね。バファリンと構造が良く似ています。


■アメリカのラップ文化と日本のラップ文化

アクセル神田
アクセル神田
ドラマ担当
ポイント:187/333|評価:GOOD

どちらが上で、どちらが下という意味ではなく、ジャパニーズラップと本場アメリカのラップミュージックがやっていることの文化的音楽的違いを、素人の私でも理解出来た良作です。

この発言によって「わかってネ~ヨ!」とディスられても一向に構いませんが、韻の踏み方が全く違うというか、そもそも別物なんです。

おそらく日本語の構造と英語の構造の違いに由来する部分なんだと思いますが、本作での韻の踏み方とリズムを日本語で表現するのは難しいし、逆に英語でジャパニーズヒップホップの韻の踏み方を表現するのも難しい気がします。

業界のスラングで韻を踏むことを「ライム」と呼ぶそうですが、日本では日本ならではの言葉で韻の俗語を開発して欲しいところです。響きがお洒落なので「ライム」と言いたくなるのは凄く良く分かるんですがね。

ええ、あえて「ライム」ではなく直訳の「俗語」を使ってやりましたよ。観賞後にラップでバトってみたい気分になる映画だったので、少々ケンカ腰になってしまいましたが、アメリカも日本もラップバトルの本質と原点は同じということなのかもしれません。

ジャパニーズラップをされている日本のミュージシャンの中からも、こういった伝説的なお話が映画化されるような大スターが出て来るのを待ちわびています。


■エミネムの演技の力量はさて置き、とにかくラップは最高峰

山守 秀久
山守 秀久
ドキュメンタリー担当
ポイント:225/333|評価:GOOD

主演のエミネム本人の半生を脚色して映画化した作品です。

主演が成功者のエミネムなので、その安易なサクセスストーリーと思い込みながら見始めてしまいましたが、そうした安っぽい話ではありません。物語の背景にリアリティを感じます。

その道のプロの方から見れば、エミネムの演技力といった面で少し首をかしげるところがあるのかもしれませんが、劇中の彼のラップを聞けば、そんなことはどうでも良くなります。撮り直しはもちろんあったんでしょう……いや、もしかしたら、なかった可能性もあります。いずれにせよ、良く噛まないもんです……

日本人には馴染みにくいところはあっても、ラップを歌う場面は一貫して周囲の人々のものを含めて圧巻でした。にわかにヒップホップ文化の言葉を拝借するなら、十分リスペクトに値する作品と言っても良いのではないでしょうか?


メインレビュー

ネタバレありの感想と解説を読む

どんなに些細なことも全ては進化の証(ラブシーンを除く)

橘 律
橘 律
メインレビュアー
ミュージカル担当/最高評価

単なる口喧嘩も、昇華に昇華を重ねるとエンターテインメントになり、音楽になり、芸術になる。

本作自体はそういった物事の奇跡的な進化を主題にした作品ではありませんが、なかなか哲学的ではありませんか。

オーケストラだってきっとホラ貝とかを吹いていたら、一緒にやろうという言い出す奴がいて、ホラ貝を持ってない奴は、そこら辺の葉っぱをむしって草笛を勝手に噴き出して、そんでもって、ただその様子を見ていて、どうにも暇を持て余してしまった奴は、足元に落ちてる石をシンバルみたいにカチ言わせ出してって感じで始まった音楽だと思うんです。

ストリートで生まれて、ストリートのライブハウスで歌うようになり、とうとうストリートの枠を飛び出て、巨大な劇場で歌うことにさえなる。めっちゃ冷めた耳で聞けば単なる口喧嘩なのに、これはとんでもない進化ですよ。

オーケストラと同じく格式が高いと言われているオペラにしても、劇場ミュージカルにしても、なんだって突然に進化のチャンスが訪れ、それをものにしたからこそ、今の状況があるんですよね。

実際エミネム本人もチャンスをものにして、ヒップホップの世界ではマイノリティである白人という立場から、ここまでの存在になりえたわけで。

そういう意味では、元気が出るというか、とても勇気と希望が湧いてくる作品なんです。作中の台詞やラップは口汚い言葉が多いですが、お話としては綺麗そのもの。実際のヒップホップシーン(調べて覚えた言葉)では、ラッパー同士がギャング絡みで殺し合ったりなんて事件も起きてしまっているようですが、音楽に罪はないですからね。

音楽業界が興行ある以上、国を問わず、あちらの世界との関りが深いのは百も承知ですが、もう二度としないで頂きたい!むしろ良く頑張ったと抱きしめてあげて頂きたい!ギャングさんに。

しかしながら、そんな本作でも難点が全くないわけではありません。半伝記的な部分は、そこそこハリウッド映画を見ている方なら、良くある描き方ゆえに冗長に感じる時間帯もあるお話です。退屈とまでは言いませんが、最後まで見た方は少しだけ我慢の時間がいる話だったのでは?どっしり構えて見ていた方は余計にそう感じたと思います。

そして、そうした一連の冗長な流れの中の最難関に、エミネムさんのラブシーンというのがあるのですが……そこはラッパーなのでね。ビーフ合戦のネタを相手方に提供しているという風に捉えてあげましょうかねぇ。

ぶっちゃけ私はあそこだけはこらえ切れずに笑ってしまいました。雰囲気から撮影手法から、何から何まで作中内で完全に浮いているんです。私は昔々のワンスアポンアタイム、父が母を想うがゆえに辞書の外箱に隠し入れていた海外ポルノを内緒で拝見したことがあるのですが、その作品のワンシーンに本作のラブシーンが酷似していたせいもあったんでしょう……

童貞卒業ってあんな感じなんだなぁみたいな感慨深いシーンになってます。父の作品も青い何たらとかいう、お姉さんがウブな青年に教えてあげる系のヤツでした。そっちのがラブシーンとしては良かったような……

おっと、色々わけのわからんことを述べ奉ってしまいましたが、終盤のラップバトルだけでも見る価値が大アリな作品であったことは間違いありません。

イヤらしい言い回しをすれば、映画がラップに負けてるという感想もなくはないですが、私にとっては結果的に不必要なシーンも必要だったと感じられるお話だったので、オススメのミュージカル作品に入れたい一本です。

映画に取る時間なんてねぇよ!という方は、最初と最後だけ見てもいいかもしれません。私には理解に苦しむ考えですが、それも一つの楽しみ方ですから。

ただし、それだと先ほどのちょいエロシーンを見逃してしまうことをくれぐれもお忘れなく。当サイトのレビューで良く体感時間の話が出て来ますが、映画全体ではなく、ワンシーンとしては最大級の体感時間の長さです。

もう何年も前の映画なのではあるものの、私、橘律はラブシーンについてのエミネムさんのアンサーソングを心待ちにしてる一人です。いやいやエロおっちょこちょくて可愛かったですね。

本作の名台詞

俺は俺の好きな事をす

出典:8 Mile/VOD版

役名:ジミー・スミスJr.(ラビット)
演:エミネム