邦画『新解釈・三國志』/新解釈はとにかくとして、誰が誰役をやるのかだけは楽しめる?

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新解釈・三國志出典: 東宝
『新解釈・三國志』


【あらすじ】

日本でも大人気の三國志の世界を新たな解釈で映画化。酒の勢いで義兄弟の契りを交わすハメになった劉備玄徳は、関羽、張飛らと共に戦乱の世を切り抜け、あの諸葛亮孔明を軍師として迎えて赤壁の戦いへと挑むが……


【作品情報】

公開:2020年12月11日(日本)/上映時間:113分/ジャンル:コメディ/サブジャンル:歴史映画/映倫区分:全年齢/製作国:日本/言語:日本語


【スタッフ】

(監督・脚本)福田雄一/(音楽)瀬川英史/(主題歌) 福山雅治『革命』


【キャスト】

大泉洋/ムロツヨシ/橋本さとし/高橋努/岩田剛典/清水くるみ/橋本環奈/小栗旬/磯村勇斗/阿部進之介/一ノ瀬ワタル/岡田健史/賀来賢人/山本美月/佐藤二朗/城田優/渡辺直美/広瀬すず/山田孝之/西田敏行


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見放題配信

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※情報は【2022年12月30日】現在のものです。上記のボタンをクリックすると各VODの作品ページにジャンプすることが出来ます。詳しくはこちらのページをご確認ください。

ポイントレビュー


■豪華キャストの無駄遣いここに極まる

試文 書人
試文 書人
コメディ担当
ポイント:108/333|評価:BAD

大ヒットした『勇者ヨシヒコシリーズ』のクランクアップ打ち上げ時のノリで作られたような作品。文化的な違いから、アメリカのコメディが日本人ウケしないのは良くあることだが、それ以上にウケる場面が少ないと思われる。お笑い芸人の「ここ笑うところですよ」が延々と続いていたイメージだ。

同シリーズのファンであれば、一見の価値はあるのかもしれないが、おそらく、そんなファンの方々でも、もう一度ヨシヒコを再視聴した方がよっぽど楽しめるであろう。

ただ、人間という生き物は何にでも慣れるもので、終盤になってくると、これはこういうものなのだという妥協心が芽生えてくるから奇妙なものである。決してオススメはしないが、「豪華キャストの無駄遣いここに極まる」という映画をお求めの方には、打ってつけの作品であるように思う。

とはいえ、この嗜好はガッカリ映画好き(カルト映画好き)とはまた違った奇特な嗜好であるので、大抵の人には当てはまらないであろう。少なくともサメ映画好きの私には唯一のオアシスであるガッカリ感さえもなかった。


■せめてタイトルぐらいは正確に付けて欲しい

山守 秀久
山守 秀久
歴史好き代表
ポイント:95/333|評価:BAD

何を置いてもまずはタイトルぐらいは正確に付けるべきではないでしょうか?本作は正史の『三國志』ではなく、半フィクションである『三国志演義』をベースに作られています。語呂は悪くなってしまいますが、『新解釈・三國志演義』とすべきです。

もっと言えば、『新解釈』の文言も消した方が良いと思います。ストーリーとしては、ほとんど一般的に広まっている『三国志演義』と同じ展開です。あるにはありますが、どうでも良いごく一部分だけ新解釈した程度。

以前、『清須会議』のレビューを書いた際にかなり辛口に書いた記憶がありますが、あちらへの評価を訂正したくなるぐらい出来が悪いです。今回は本作がコメディ映画であるという点を最重要視した上でこの低評価ですから……

いや、私なりに訂正したタイトルでも不十分くらいの内容と言っても良いかもしれません。改めてタイトルを付けるなら、『三國志演戯』もしくは『三國志遊戯』、これでも勿体ないぐらいでしょうか。

コメディなんだから、ただ笑えたらそれで良いじゃないかという意見には賛同したいところなんですが、笑えなかったからタチが悪いんです。なお、『三國志遊戯』とのタイトルの作品は漫画とゲームですでに存在しているそうなので、私の中で本作は『三國志お遊戯』に決定することにしました。

しかしながら、立派な原作や役者さんの力があってもどうにも出来ないお話があるということは、本作から学べたような気がするので、そこはオススメポイントになるかもしれません。多少無理がありますが……


■ツボに入らなかったコメディ映画の中でもかなり異質な存在

近道 通
近道 通
オールジャンル担当
ポイント:88/333|評価:BAD

この作品って、万策尽きたユーチューバーが、『個性的な味の食材を沢山集めて鍋にしてみた』っていうタイトルで、ヤケクソにアップした動画とさして変わらない発想から生まれてきてません?

せっかく『三國志』ってそれだけでも美味しい出汁を使っているのに、台無しなってしまっています。個性の分だけ灰汁も強いから、もうその灰汁取りをしているだけで、出汁がすっかり抜けてしまって、もう水炊きになっちゃってる。

カツカレーは、勿体無いことをしつつも、カツもカレーも両方あるなら、そうしないと勿体無いぐらいの旨さを奇跡的に出せたから、世に受け入れられたのであって、基本的には勿体ない存在同士はお互いにとって邪魔物でしかありません。

それぞれが別プロットで進行するコース料理ならまだしも、お鍋ひとつにまとめる鍋料理は個性的な味は少ない方が良い。何でも食べそうなあの『バキシリーズ』の範馬勇次郎さんですら、上等な料理にハチミツをかけちゃダメよと言っています。

しかもそれでいて、オールスター戦みたいなお祭り騒ぎ的な楽しみ方も出来ない作品なんですよね、この作品って。

これ一体誰が得したんでしょうか……できうる限り辛辣になり過ぎないように、レビューを例え話で誤魔化していますが、嫌味でもなんでもなく、本作をオススメされる方のお話を伺ってみたいです。

いや、これまでも感想として低い評価を下した作品は沢山あるんですけど、本作はそれらの作品の中でもかなり異質なので……もしかしたら、私の見方が悪かったのかもしれません。


メインレビュー

ネタバレありの感想と解説を読む

橋本環奈の玉砕覚悟の頑張りだけは評価出来るかも

近道 通
近道 通
メインレビュアー
オールジャンル担当/最低評価

よくよく思い返してみると、一つだけ救いがありました。諸葛亮孔明の妻、黄夫人役のハシカンこと橋本環奈です。

個人的には特別アイドル時代の彼女のファンだったわけでもなく、ルックスはメチャメチャカワイイけど女性として死ぬほど好みなわけでもなく、例の『奇跡の一枚』から良くここまで成り上がってきたなぁ、といった印象しかない俳優さんだったのですが、本作で彼女への好感度は大いにあがりました。

本作のような個性派俳優ひしめく厳しい環境の作品で、自分の持てる力を120%出して真剣勝負をしていたからです。少しでも多く出演した爪痕を残そうという必死ささえ感じられました。私の中では間違いなく本作のMVPです。

これまでは漫画原作(特にギャグ)の映画ばかりに出演しているイメージが強かったので、どうしても漫画原作の実写化作品の難しさの方に目が行きがちで、彼女の演技にまでは目がいかなかったのですが、明らかにそうしたこれまでの出演作で鍛えられています。

本物の体当たり、あるいは体を張った演技というのは、本作での彼女のようなものを言うのだと思います。キスシーンがあるとか、ベッドシーンがあるとか、もっと露骨に言えば単に脱ぐシーンがあるとか、そういった類の行動は体当たりした、体を張った演技とは言いません。

そうした演技はもっと精神的なもので、自分の俳優としてのイメージ、芸能人としてのイメージ、女性(男性)としてのイメージを覆すような演技を指す言葉だと私は思っています。

こんなことを言うと、じゃあ、アイドルが顔芸やっただけで、体を張ったって言っていいの?嫌われキャラ演じるだけでいいの?みたいな反論をしてくる人がいますが、それも違います。

与えられた役割に徹するために、自分の全てを賭ける、これが体当たり、体を張った演技です。少なくとも本作に限って言えば、それを一番徹底出来ていたのは彼女だったと思います。

もう割とどころか、本気で橋本環奈が出ているシーンだけが何とか見られました。もう彼女が出演してくるころには、本筋にうんざりしてきてしまっていたせいもあるんでしょうが、こういう姿を見せられると応援したくなってくるものです。

本作の内容については、言い出すとキリがなくなりそうなんでね……コメディ成分はほとんど会話劇に一点集中だし、その会話も緩急のない軽いノリのボケ倒し。挙句の果てには、もっとも大事な新解釈の部分が矛盾してるっていうね。

作中に絶世の美女として、三國志演義ではお馴染みの貂蝉が出てくるんですが、その役を渡辺直美がやるんです。初めて彼女を見た劉備達は「え~」みたいなリアクションをします。製作側としてはベタだけど、そこでひと笑いくるだろうみたいな感じで配役したんでしょうけど、彼女のことを「時代考証的美人」という言い方でフォローをするんです。この時代はふくよかな女性の方が美女だったんだと。その言葉のおかげで作中では美女扱いが続きます。

いや、それが仮に(ふくよかな女性が美女と呼ばれる時代だったことが)事実であったとしたら、新解釈にならないでしょうし、それこそが新解釈なんだと主張するなら、その後に出て来る美女と呼ばれる妻達もほとんどがふくよかな女性でないといけない。

でも、渡辺直美演じる貂蝉の出番が終わってから出て来るのは、現代の美女ばかり。女優さんですから当たり前ですけど、本当に新解釈していくなら徹底しないと。コメディ映画なんだからそこらへんは適当でいいじゃないかは、単なる逃げです。三國志の新解釈で笑わせたいって映画なんですから、根底にある設定をなかったことにするのはいけません。

他にもアラは沢山ありますが、書くのを我慢できない部分だけを挙げるとしたら、こうした部分ですね。

というか、そもそも渡辺直美って普通に可愛くないですか?いや可愛いでしょ。異性の好みは十人十色という前提があったとしても、万人の中ではかなりカワイイ部類に入ると私は思うんですがね。この手のギャグ演出に使うのにはややキャスティングミスだったような気がします。

今の時代考証的に考えても彼女は美人は美人でしょ?オプションが多いだけです。そして、渡辺直美に限って言えば、周囲に流されてそのオプションを取ったりせずに、そのままの渡辺直美でいてくれた方が魅力的だと私は思っています。

そういえば、彼女にしても、その彼女の真の姿役の広瀬すずにしても、変な使われ方をしていた割にはプロ意識の高い役者ぶりでしたね。少なくとも、昔よく見かけたお笑い番組のコントに嫌々ゲスト出演した感はありませんでした。

こう総括してみると、いいところもある作品なんですけどね、でも、全体としてはちょっとこれを笑えたとか、面白かったとは言いたくないですね。

多少ニュアンスは異なりますが、本当の新解釈が見たいなら、漫画の『蒼天航路』を読むことをオススメします。もしかしたら、シリアスな作品のこちらの方が笑えるところが多いかもしれないですよ。

本作の名台詞

桃の木って中々ないもんね

出典:新解釈・三國志/VOD版

役名:劉備玄徳
演:大泉洋